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三点確保で岩を歩く

【第5回 一枚岩の大きな小鋸】

(5)小鋸からススキの海へ

取材日は本州北部を低気圧が通過中で、強い南風が吹き込んだ。岩山ピークは風あたりは強いが、汗の肌には心地よい。南側眼下は採石場で、音を立てて重機が岩を穿(うが)っている。目を南の先に向ければ、伊予ヶ岳、富山、津辺野山がどっかり座る。西側に目を転ずれば、三角錐の美しい鋸山がこちらを見下ろす。ギザギザである鋸山がこんな形に見える場所は少ないはずだ。その三角のすぐ右手の平坦部が東の肩である。鋸山のピークから延々とこの尾根を歩いたことが、すぐに確認できた。

この岩山は、相当のベテランでなければ、知り得ない山である。あまりに印象的なので山の名でもあるだろうと、川崎さんに問うた。しかし無名であった。「この際、忍足さんが命名してはどうか」と川崎さん。小さいけれども難所の山。鋸ほどダイナミックな切れ味はないが、命の危険をも伴う難所の山。鋸よりも小さい山、「小鋸(このこぎり)」ではどうだろう。標高は推定190b。低いけど鋸に連なる小さな岩山だ。

孤立するような小鋸の姿

この小鋸の上で、昼食をとる。ぐるりの眺望が利き、まさに絶景。こんな場所で食べるおにぎりは最高である。

食休みの大休止後、小鋸を下山。ここでもザイルの助けを借りる。そのまま腹を巻くように富津市側に降りて、その小鋸を見上げる。一枚岩のような大きな斜面が迫る。とても素人では手に負える存在ではない。

小鋸を後に、東へ進む。大規模な採石場の縁の上を歩くような形になる。眼下の採石場は垂直にえぐられ、まるでグランドキャニオンのようだ。そばで見れば巨大であろうジャイアントブレーカーが、小さく見える。慎重に歩を進めると、ススキの壁に出合う。

ここ最近は誰も歩いていないのだろう。先頭の山口さんが、ススキの海をラッセルしていく。目標物がない分、大変な役割だ。「あった、こっちだ」。山口さんが声を上げる。目標の樹木があったのだ。

小さなやぶを過ぎると、山道が始まった。「ここから尾根が変わります」と山口さん。鋸山尾根は、さっきの小鋸で終わり、ここからは嵯峨山系の尾根になるのだという。

(つづく)

【写真説明】三点確保で岩を歩く

【写真説明】孤立するような小鋸の姿

08年1月9日 21,234
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