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長沢の四等三角点

山中激歩連載【第15回】

(15)鹿島山から花火工場跡へ

鹿島山から北側へ尾根筋を行く。大汗をかいたピークへの上りとは打って変わり、ここからは平坦な尾根道がつづく。時折、例の6尺道の様相も呈しているから、ここも立派な古道であろう。

杉林の中には、イノシシが体をこするヌタ場があって、足跡も生々しい。頻繁に出没しているのだろう。野獣の雰囲気をかぎつつ、北へ。やぶをこぐような場所もあるが、誰かが歩いていて、概ね歩きやすい。この尾根ルートは、国土調査が入っていて、あちこちに調査杭が打たれている。それで踏み跡があるのだろう。

鹿島山頂から1時間で、「長沢」四等三角点になる。標高270・6メートルだから、ほぼ鹿島と同じ標高だ。2つのピークが同じ標高だから、尾根道は平坦というわけだ。

この長沢三角点は、余蔵山までの尾根ルートの貴重な分岐点になる。ここを北に向かえば、林道平群支線に出るが、そのまま北西方向へ行くと、迷う。川崎勝丸さんらが、何度も通ってこのやぶに埋もれた三角点を探し当てた。この発見で鹿島―余蔵の尾根ルートが確立されたのである。

県の境界杭を見ながら、やぶを行く。すでに草が伸び放題で、鎌で草を刈りながらの行軍である。よくぞこのルートを発見したものだと思う。ハイキングにはとても無理だが、ベテランの案内なら歩ける。やぶに足をとられながら、何とか林道に出る。長沢三角点から35分かかった。

花火工場東側から眺める富山

開削したものの、現在は誰も利用しないのだろう。林道はひどく荒れてしまっている。道には杉の葉が積もり、左右からはイタドリが勢いよく枝を伸ばす。車も通らないから、草は伸び放題だ。

車が通れる幅の林道を歩くが、左右のイタドリが障害物のように立ちふさがる。右に左によけて行く。

しばらくすると、花火工場跡になる。平成6年に不幸な爆発事故があって、地元の方4人が亡くなった。事故以来、花火製造は止められ、草が伸び放題だ。工場入口に事故の慰霊碑があって、亡くなった人の名前が刻まれている。石碑に頭を垂れる。

この工場跡手前から眺める富山が秀逸である。美しい双耳峰が左右に裾野を広げている。南峰の左に福満寺のある前山、右手には津辺野山が座る。双耳峰がさらに前後に小山を従えているのである。

山里にはさまざまな暮らしが息づく。美しい富山と伝統ある農村花火。事故によって伝統は途絶えてしまったが、美しい山と周辺の自然はいまもそのままだ。

静かな山でいろいろな歴史を思う。これぞ古道の奥深さであろう。

(つづく)

【写真説明】長沢の四等三角点

【写真説明】花火工場東側から眺める富山

07年7月19日 69,930
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