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黒い岩肌を落ちる上段部分

[第29回] 一本松の滝(いっぽんまつのたき 鴨川市西)

2段構造の隠れた秘滝

一連の曽呂の滝群の中で、もっとも探索が難しかったのが、この滝である。地元の農家を訪ねて、所在地の概略を聞いた。「案内がいなければ、行けないよ」との忠告付きだった。滝はいわゆる無名で、小字は九本木。この農家の人は「滝の辺りを一本松と呼ぶ。昔は立派な松があったんだ」という。では一本松の滝ではどうだろう。

農家に教えてもらった辺りを探るが、川を遡るとやがて沢が消えてしまう。周囲は水田が広がるが、害獣の被害が多いのだろう。どの田も獣よけの柵がしてあって、痛々しい。

水が嶺岡山系に沿って落ちる部分。洲貝川の源流部である。県道西江見停車場線の金杖の滝(山口の滝)の南側を西に降りる。急な下りの曲がったコンクリート道で、しばらく歩くと、川沿いの道になる。ここから先は泥沼地帯を歩くことになるが、一般の人は危険なので近寄らない方がいいだろう。害獣よけの柵も多いし、農家に迷惑をかけることになるかもしれない。

厚い竹やぶのすき間から、黒い岩肌を滑る流れを発見する。「おお、ここにいたのか」。思わず声が出る。それほど探すのが難しい滝だった。

害獣よけの柵の戸板部分を開け、無理やり川へ降りる。それほど高低差はない。降りた正面に黒光りする垂直の岩壁がある。ここに緩いS字状に落ちるナメ滝があった。黒い岩肌に白い流れが美しい。滝の周囲は竹やぶで暗いから、白い流れはなおさら際立つ。捜し求めた初恋の人に出会ったような気分である。

はしごがかかる下段部分のS字の流れ

この滝の特徴は、滝の左側に木製のはしごがあることだろう。はしごは全部で17段。はしご全体が苔むしてしまっているが、しっかりしたつくり。滝見隊の1人が、慎重に上がっていく。滝上に出た隊員が「おお、すごい。上がって来なよ」と叫ぶ。恐怖におののく自身にむち打って、このはしごを上がる。最上段は鉄製のクサリになっていて、上がった先は固い岩盤。さらにその先のカーブに、今度は光る岩壁が待っていたのである。水はこの壁を広がって伝わり、小さな沢となって、下段の滝に落ちる。上段の滝が高さ8bほど、下段は6b。二段構造の滝だったのである。

上段滝の高さが東側の水田と同じ高さで、農家はこの上段の滝から塩ビ管で水を取っている。はしごはそのメンテナンス用に設置されているのである。

今回は取材のために、無断で登らせてもらったが、安全性を考えれば関係者以外は登るべきではないだろう。管理者に対して、紙面でお詫びしたい。

存在そのものがマイナーな滝であるが、二段構造といい、美しい姿といい、うっとりするような滝である。誰でもが気軽に訪れることができない地理的条件なのが、返すがえすも残念である。

【写真説明】黒い岩肌を落ちる上段部分=鴨川市西

【写真説明】はしごがかかる下段部分のS字の流れ=同

11年1月8日 6,435
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