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最近、産経新聞で、「【溶けゆく日本人】蔓延するミーイズム」という連載をやっています。その中で2008年2月13日には7回目として、「疲弊する医療現場」について報道されていました。

「ミーイズム」という言葉は、字面をみればその意味が想像できますが、しっかり理解しないといけないと思って広辞苑を開きますと、「自分以外のものには目を向けないという、自己中心主義。1960年代のアメリカの社会活動世代に対し、70年代の風潮を背景に生まれた考え方」と説明されていました。また他の所では「何の義務も果たさずに権利ばかり主張すること」という説明もありました。「ミーイズム=自分主義、自分以外には無関心な生活態度。または自分中心的な生き方」という説明もあり、「個人主義とミーイズムは別物で、前者には自分の行動や言動に対して責任を持ち他者も認めるが、後者にはまったくソレがない」とする意見もありました。

産経新聞のこの特集は、自分のことばかり考える勝手な人が増えたことを、いろいろな場面で紹介し、このままでは日本人と日本は溶けていってしまうぞ、と警告を発している記事で、大変よいものだと評価致したく思っています。

今回は、医療機関を訪れる患者さんの中にもミーイズムの人が多くなり、その対応に医療者が追われて疲弊し医療現場を去っていき、それが日本の医療崩壊を助長している事実を報道していました。私には納得できる内容が多かったです。

産経新聞が冒頭に紹介した患者さんは以下のような方です。

■権利を名乗る身勝手

昨年末、東京都内の病院に勤める産婦人科医(38)は、繋留(けいりゅう)流産で手術日を決めたばかりの患者(35)からの電話に一瞬、返す言葉を失った。

「昨日決めた手術日ですけど、仕事の都合がつかないので変えてください」

年末ということで、手術の予定がかなり立て込んでいた。それでも幸い翌日に空きがあったので翌日の手術を提案したが断られ、1週間後に決めた。もちろん患者もそのとき「この日なら大丈夫」と承諾、スタッフの手配もすませたところだった。

患者は大手企業に勤める会社員。確かに年末は仕事が忙しいとはいえ、それを承知で手術日を決めたはずだった。

「絶対に(手術日は)変えられないんですか」と食い下がる患者に、産科医が「すべての患者さんの手術日程を変えないと無理です」とこたえたところ、「じゃあ、そうしてください」との言葉が返ってきた。

もちろん、すべての患者の手術日程を変えられるわけがない。また、年明け後なら新たに手術日が組めるが、それでは患者の体が心配だ。産科医が改めて「つまり、手術日を変えるのは不可能ということです」とはっきり告げると、「それなら別の病院で手術するからいいです」と、電話をたたききられた。

この患者は他の病院を数か所あたったものの、手術を引き受けてくれる病院がなかったことから、結局、この産科医のいる病院で当初決めた日程で手術を行った。

産科医はいう。「結果としては無事手術できてよかったのですが、診察や治療以外の対応にこちらはへとへとです。産科医不足がいわれ、実際にみなぎりぎりの状態で仕事をしているのに、わがままな患者に振り回されると、もうやってられないという感じです」

この気持はほんとうによく解ります。

このほかにもいろいろと紹介されていましたが、「看護師に添い寝を強要する」「大部屋で同室の人の迷惑になる行為を平気でする」「治療のために絶飲食にするよう説明しても『おれは食べたいものを食べる。おれは客でおまえらはサービス業だから、客のいうことを聞け』と従わない」―医療現場で患者が身勝手な要求を通そうとする光景は、もはや日常茶飯事と化していると同紙は報じています。

また同紙は、医療関係者によると、こうした困った患者は平成12年ごろから増え始めたと指摘し、医療事故が大きくニュースで扱われ、医療不信が高まるとともに、患者の権利が強くいわれるようになり、病院が患者を「患者さま」と呼ぶようになった時期と重なる、とも報じています。「患者様」と呼ぶようにしたのは亀田メディカルセンターであるという話もあり、私には忸怩たる思いがあります。

この記事では、「最低限のルール、常識的なマナーを守れない患者の増加により、医師が疲弊し、病院から立ち去る原因のひとつとなっている。実際、全国の病院で医師不足が深刻になっているのだ。」と結んでいます。

同じようなミーイズムの人びとが、医療現場のみならず、教育現場などにも現れていることを、このシリーズの中で同紙は報じています。「モンスターペアレント」という言葉も聞かれるようになりました。ミーイズムの蔓延と訴訟件数の増加は相関関係があるのではないでしょうか。悲しい世相です。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

08年2月18日 16,667
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