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輸血に関してウイルスやプリオンの感染が問題となって様々な報道がなされています。国民の大きな関心事となるのは当然のことで、皆が興味を示すことは良いことだと思います。ただ、現在の日本では輸血に使われる血液はすべて日本赤十字社の血液センターでチェックしたものですから、輸血による感染のリスクは極めて低いものであることを認識し、過剰反応をしないようにするのも重要なことです。

私が心配しているのは、B型およびC型肝炎ウイルスやHIVウイルスのことではなくて、新型インフルエンザや新型肺炎などが蔓延した時のことです。

すでに多くの方がご存知のように、鳥インフルエンザウイルスが変異し、人から人に感染する新型インフルエンザ発生への懸念が強まっています。2007年秋には、日本政府は新型インフルエンザ対応総合訓練のシナリオを発表しました(新型インフルエンザ対策行動計画、平成 年 月改定)。1918年のスペイン風邪は世界で4000万人が死亡していますが、今、このような大流行が心配されており、最悪の場合、国民の4人に1人が感染、200万人が入院し、 万人が死亡すると政府は推定し、ライフラインの維持をどうするかが検討されています。

私が国民の1人として、また外科医として心配しているのは、このような事態が起きたときに輸血業務がどうなるかということです。特に「安全な輸血血液の供給」がどうなるかということです。これまでは、輸血を介して感染する病原が、日本で新たに見つかった場合、献血基準を強化して受血者の安全を高める努力をしてきました。例えば、現在の日本の献血適格者規準では、感染リスク軽減のため、海外旅行者および海外生活者について帰国日(入国日)当日から4週以内の方は献血できません。さらに、マラリア、シャーガス病、トリパノソーマ症、バべシア症などの原虫症の流行地域への渡航、生活歴があると献血できません。変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、いわゆるBSE(狂牛病)の流行国である英国に1980年から 年期間で1日でも滞在した人は、献血できなくなっています。このBSE以上にリスクのある新型(新興のみならず再興も含む)感染症が発生すれば、血液供給に大きな影響を与えると考えられます。

政府は、新型インフルエンザの最悪のケースが発生した場合、国民の4人に1人が感染すると推定しています。そのような事態に陥った場合には、献血活動は瞬く間に窮状に陥ります。特に血小板製剤は、その有効期間が4日間ですから、献血が止まった瞬間から必要としている血小板減少症を呈する患者への血小板輸血は止まるという事態が発生するのです。流行が1週間続いただけでどのような事態が発生するかと想像すると恐ろしくなります。

このような事態が起きた場合でも、どうしても輸血が必要な状況は発生します。そのような場合は、感染のリスクを十分に理解した上で輸血をしなくてはなりません。輸血を受ける側もそれを認識したうえで輸血を承諾する必要が出てきます。「よくわかりませんのでよろしく」とか、「信頼していますからすべてお委せします」という返事では医療機関で治療を受けることができなくなることを覚悟する必要があります。また日赤の血液センターでの血液確保が困難になると、現在ではほとんど行われていない「身内の人の血液をもらう」ということが復活するかもしれません。

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加納宣康 昭和 年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

08年2月25日 17,965
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