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今日(2008年3月2日)はテレビのスイッチを入れたらフジテレビで「それでもボクはやってない」という映画をやっていました。2007年のフジテレビ・アルタミラピクチャーズほかの作品をテレビ向けに編集したと記載されていましたが、とても迫力のある良い作品でした。

身に覚えのない痴漢容疑で現行犯逮捕された男性が主人公でした。無実を訴える彼は起訴されながらも裁判で自身の無実を証明しようと奮闘するストーリーです。

フリーターで就職活動中の徹平青年は、会社の面接へ向かう満員電車で女子中学生から痴漢行為を問いただされ、現行犯逮捕されてしまいます。警察署や検察庁での取り調べでも徹平は一貫して何もやっていない≠ニ訴え続けますが相手にされず、ついに起訴されてしまいます。

2人の弁護士も熱心に活動してくれ、徹平の母や友人らも徹平の無罪判決を信じて動きだします。周囲が見守る中、ついに裁判が始まります。はじめは公正な判断をしようとする裁判官が担当だったのですが、「無罪の人を罪人にしないことが最も重要」という信条が上司に受けいれられず左遷されてしまいます。無罪判決を多く出す裁判官は出世できないそうですから恐いことです。その後を継いだ裁判官は徹平を有罪にすべく裁判を誘導していきます。痴漢行為を否定する裁判を起こすと99・9%負ける、というデータを示しながら番組が進行していきます。被告の無罪を証明すると期待された実験ビデオも評価されず、結局、有罪判決が下ってしまいます。ここで番組は終わりでした。

以前に観た同様のドラマでは、大変な苦労のすえ、無罪が確定してドラマが終わっていましたが、今回は有罪となり、「上告します」と宣言したところで終わっています。水戸黄門的な終わりにはなりませんでした。

こういうドラマや映画をみて、またいくつかのニュースで見る限り、いったん痴漢容疑をかけられると、その疑いを晴らすための闘いは凄まじいものであり、虚しいものですね。何か月も留置場に入れられて闘い続け、勝訴率が0・01%とは悲しすぎます。今回の映画および前回観たドラマの中でも刑事や検事が言っていた「ここで認めて5万円払えばすぐに帰れるが、戦うなら何か月も留置場の中だよ。会社へも行けなくなるよ。裁判を起こしても勝てる確率はほとんどゼロ」と言われると、多くの男性は崩れおちて「口惜しいけど、5万円払おう」となってしまうでしょうね。戦うとなると、痴漢と疑われていることが世間の知るところとなり、勤務先も辞めさせられ、子ども達も学校でいじめられるかと思うと、「耐えがたきを耐え、……」と言っていつまで続くか解らない闘いに挑む人は少ないでしょう。

こんな世の中ですから、とにかく痴漢と間違われないように気を付けなくてはなりません。私は、満員電車に乗った際、ドアの近くに立つ時には荷物を持っていない手はできるだけ吊り革を持つようにしています。また、できればすぐに奥の方へ入って、座っている人の前に立つようにしています。そこで荷物は棚に挙げて、右手で吊革をつかみ、左手に文庫本を持つようにしています。こうすれば座っている人が、私が痴漢行為をしていないことを証明してくれるだろうと期待できるからです。

こんなことに気を遣いながら電車に乗らなくてはならないなんて、とても悲しいですね。

いろいろと虚しいことが多い今日このごろです。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

08年3月10日 24,904
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