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日本人は賢くなれ

秋田県小坂町の十和田湖畔で見つかったオオハクチョウの死骸などから検出された鳥インフルエンザ・ウイルスは、独立行政法人・動物衛生研究所(茨城県つくば市)の検査で4月29日、鶏に感染すると致死率が高い強毒性のH5N1型と判明しました。オオハクチョウはすでにシベリア方面へ北上しており、大きな流行にはならないと思われていますが、これによって新型インフルエンザの問題がクローズアップされてくるでしょう。

鳥インフルエンザ・ウイルスが変異して、人類が免疫を持たない「新型インフルエンザ・ウイルス」がいつ出現してもおかしくない、と言われています。世界的な大流行(パンデミック)を引き起こし、多数の犠牲者が出る恐れがあるのです。

新型インフルエンザの蔓延を防ぐためにさまざまな対策を多角的に取る必要がありますが、中でもワクチン対策は重要な柱となるでしょう。

先に、政府の「新型インフルエンザ専門家会議」は、「プレパンデミック(大流行前)ワクチン」を、臨床研究の形で医療従事者や検疫所職員などを対象として約6000人に事前接種する方針を決めました。今後の予防策を方向付ける上で意味があり、ここで得られるデータを国民のために有効活用していく必要があるからです。

今年度の臨床研究では、検疫所職員や医療関係者らの中から希望者に接種し、安全性や有効性などを確かめる方針です。その結果に応じ、来年度は社会機能維持を担う1000万人への事前接種を検討するとしています。世界的にも初のケースとなりますが、安全に基礎的な免疫をつけることができるとすれば歓迎すべき方策です。

しかし、事前接種のデメリットも考えておかなくてはなりません。予防接種には副作用は一定の確率で起きるものであることを知って頂く必要があります。多数の人に接種することで、問題のある副作用が生じる恐れは否定できないのです。また、結果的に新型インフルエンザ予防の効果がなかったり、当面は大流行が起きなかったりすることもありうるのです。一方で、上記の方策を実施することにより、慎重に安全性を確認できるというメリットもあります。

一部の職種の人にだけ予防接種をするというと、「希望者には全員実施すべきだ」という意見が必ず出て来るでしょう。その際に確認したいのは、重大な副作用が出うることを理解して、たとえ自分やその家族がそうなっても絶対に文句を言わないことを確約できるのか、ということです。まずは医療従事者などを中心に副作用の出方を調べるための実験をしようとしているのだ、ということがほんとうに理解できる人はその実験に参加していだいてよいと思いますが、クレーマーになる可能性のある人にはお断りしなくてはなりません。

予防接種の実施により結核をはじめ日本人の感染症が激減できたのに、副作用に関する問題が大きく取りあげられるようになった結果、いくつのかの予防接種が任意になり、最近の結核患者の増加や百日咳の蔓延を招いています。

国民が予防接種のメリットとデメリットを十分に理解し、そのうえで希望する国民全員にプレパンデミックワクチンを接種するのが理想です。ワクチンをはじめ医療には不確実な要素があり、100%の安全はありえないことを国民が理解しないと、新型インフルエンザがパンデミックとなった際には日本は亡びかねません。後年、歴史の教科書に「医療に、予防接種に、100%の安全を求めたバカな国民が多かった日本という国は、徐々に自滅の道を進み、遂に亡びた」と書かれることになるでしょう。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

08年5月4日 26,385
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