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新しく始まった「後期高齢者医療制度」の評判がずいぶん悪いですね。政府与党の中にも強い批判がある中、とうとう野党4党が廃止法案を参議院に提出しました。

参議院を通っても衆議院で否決されることは間違いないですから、いったいどんな効果があるのかと不安になります。仮にもし通過したとしても、旧制度に戻すだけで、未だ代替案が出ていない点が大きな問題でしょう。

高齢化が急速に進むわが国ですから、当然、医療費を含め社会保障は大問題です。そのため従来の老人保健制度に代わる高齢者医療制度の創設を検討することは与野党で決めていたことでした。2000年の医療制度改革で参院が関連法案を可決した際、共産党を除く各党で「早急に新たな高齢者医療制度を創設せよ」との付帯決議を採択しているのです。社会の高齢化によって増えていく医療費は、現役、高齢世代と公費でまかなうしかないことは誰しも認めることです。高齢者にも保険料を負担してもらわなければ、その分は当然、現役世代が背負うことになります。公費をどこまで入れるかも含め、医療費負担のあり方を議論することが必要であることも誰しも認めるところでしょう。

今回の制度変更によって生じている混乱の原因は、厚生労働省や自治体の対応のまずさにあるということは認めるべきだと思います。「後期高齢者医療制度」はその呼称を含め、細かい配慮を欠く面が目立つことも確かでしょう。主に75歳以上が対象の大きな制度変更なのに、肝心の高齢者に配慮した説明や準備を怠ってきたといえます。

そのため、感情的な反発が先行していて、もっとも重要な「制度の長所と短所」の冷静な検討が二の次になってしまっている印象があります。ともかく廃止せよ、議論はそれからだ、という野党の姿勢にも不安を覚えます。

厳しい世論の目と野党の攻勢にあって、政府・与党は大あわてで制度の見直し作業に入りましたが、負担増になる高齢者の救済策として、バラマキのように幅広い減免措置を検討しているばかりで、根本的な解決に近づいているとは思われません。

日本の総医療費を対国民所得比でみると、先進国のなかでは最も低い水準です。しかし、政府・与党はこれまで医療費水準の抑制を続け、医師不足をはじめ医療崩壊ともいえる現象が起きています。政府・与党の医療費抑制政策に基づいて作られた今回の後期高齢者医療制度に危機感を抱いた高齢者達は「俺たちに早く死ねというのか」と怒っています。私も今後、高齢者の一員となる団塊世代ですから、大きな不安を感じています。

新しく始まった「後期高齢者医療制度」は欠点があまりにも多いから、廃止して新しい制度をまた考えだすのがよいのか、本制度の理念は間違っていないからマイナーチェンジをしながら維持していくのがよいのか、私自身にもまだわかりません。どちらにしても、これまで日本の発展を支えてきた高齢者に属する人達に対する感謝の気持を忘れず、日本の優れた国民皆保険制度を維持するために、低医療費政策を改め、国民負担が増える覚悟をしなくてはならないことは間違いないと思います。

(2008年5月25日記述)

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

08年6月2日 22,239
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