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最近、大きな問題として認識されるようになった「医師不足」を解消するため、厚生労働ネは「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめて発表しました。これまでの医師養成数の抑制方針を180度転換し、医師の増員を打ち出したものです。

私の若い頃、一時、医師不足という問題が注目され、政府は、1970年代に1県1医科大学の設置を進め、医師の養成数を増やしてきました。私が医学部へ入学したのが1970年でしたが、当時は1年の医学部入学者数は全国で3000人でした。その後、新設医大の造設ラッシュとなり、多くの医科大学、医学部が作られました。その結果、それまでの3倍近い医師を養成するようになったのです。

しかし、その変化があまりにも大きく、医師数が急速に増加してきたため、1980年代になると「将来、医師が増えすぎて医療費の高騰を招く」との見方が強まり、政府は医学部定員の1割近い削減に踏み切りました。あの頃は世界的に多すぎる医師数が話題になり、イタリアでは医師としての職につけないものがタクシー運転手をしているという話もありました。

政府は1982年に「医師数の抑制」を閣議決定して以来、今回、四半世紀ぶりに方向転換したわけです。医学部の入学定員は今年度約7800人でしたが、これを約8300人程度に増やす方針です。

現在のわが国の医師数を他の国の医師数と比較しますと、わが国では人口1000人当たりの医師数は2・0人で、経済協力開発機構(OECD)加盟30か国中27位ですから、一昔前に「医師過剰時代到来」と言われたのとはずいぶんかけ離れた現状となっています。

30年前と比較してわが国の医師数は格段に増加していますが、医療の進歩とともに多くの人員を要するようになったこと以外に、人間不信社会とミーイズムが医師をはじめ医療者の合理的な働きを疎外している現状も医師不足を招いている大きな原因だと私は考えています。

例えば、昔だったら小児科以外の開業医でも、外科の勤務医でも、夜間に小児の急患があれば喜んで小児を診療していましたが、現在では、「小児科が専門ではない」医師が診察すると、「専門外の医師が診た」と疑いの目で見られますから、専門外の医師が喜んで夜間の小児を診ることはなくなりました。

本来の人間性をなくした人が増えてしまった、こんな日本の中で生きていかなければならないのですから、昔と較べれば遥に多くの専門医を作るようにしないといけません。人間不信時代を無事に生き抜くために、医師数をまた増加させることに賛成せざるをえません。人間不信とミーイズムは、以前には必要とされなかった多大の負担を国民に強いるのです。

08年6月30日 18,043
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