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日本の少子高齢化が進む中、老人たちに一体いくら医療費を注ぎ込むのだ、という非難の声が若い人たちから上がってくるのを感ずるようになった昨今です。

明らかに身体異常をきたしているときに、医療費を使うことに抵抗する人は少ないだろうと思いますが、最近増加傾向にあると言われる「認知症」の場合は判断が難しくなると思われます。

こんな中、朝日新聞は2018年12月10日午後4時配信の朝日新聞デジタル(アピタル)に、「認知症の超高齢者は『脱医療化』を 専門医が提案」と題する記事を発見しました。提案者は、東京都立松沢病院長の斎藤正彦さんです。

認知症の超高齢者には医療を施す必要はない、と取れる表題ですから、普通の医師には恐ろしくて言えないことですので、思わず、内容を見ました。

記事の一部を引用します。

同じ認知症でも、50代などの若いうちに起こる認知症については、これまでにも増して研究を進めるべきです。そのために国民の税金はもっと使われていい。しかし、90歳や100歳といった超高齢の人に関しては、認知症の「脱医療化」を考えるべきだと思います。いまは90歳以上の人にも抗認知症薬がたくさん処方されていますが、正常な老化とほとんど変わらない人も多い。そのような人に対して医療がでしゃばる必要はない。もちろん、単純に「何歳を超えたら薬を出さない」と一律に決めるべきではありません。個々の状態に応じて医師が判断すればよいのです。

最近、ぼくは90歳くらいの患者さんにはすぐには薬を出さないことにしています。問題があればまた来てもらえるよう、数か月後の予約は入れてもらいます。すると次の回、とくに変わりはなくてまた予約だけ入れる人もいるし、症状が進んで薬を出すこともある。ともかく、最初から「取りあえず薬」ということはしません。医者がそうやって気を付ければ、たいして効かない抗認知症薬のために多額の医療費を使う必要はなくなります。

多くの医師がこの主張に同意すると思いますが、果たして日常臨床の中で、病院あるいは診療所を訪れた患者さんおよびそのご家族に、この通りに説明し、それを受け入れてもらっている医師がどのくらいいるのか、と不安に思います。

「せっかく、認知症に効果があると言われている薬があるなら、出してくださいよ」と言われる場合も少なくないと思われます。私が患者でも処方してほしいと思ってしまうかもしれません。

こんな実情ですから、認知症超高齢者の「脱医療化」を全国的に展開するのは容易ではないと危惧しています。本紙読者の皆さまはどう思われるでしょうか。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

12月17日20時00分 558
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