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最近、アウトバウンドとかインバウンドという言葉をよく見たり聞いたりします。

もちろんアウトバウンドは日本から外国へ出て行く人を指し、インバウンドは日本へ入ってくる人を意味しています。

インバウンドに関しては、医療界では近年、「メディカル(医療)ツーリズム」という言葉が良く使われるようになりました。

良く耳にするのは、中国人富裕層を日本へ観光に誘いつつ、日本の医療機関で健診あるいはドックを受けさせる企画です。

私のよく知っている某医療機関では、院内に中国医療部というセクションを設け、そこで中国人の患者さんあるいは健診受診者のためにいろいろと便宜をはかり、お世話をしています。私も同院在任中は中国人の患者さんがおいでになった際には同部の職員に大変お世話になり、助けていただいて、今も感謝しています。

ただ、学会へ行っていろいろな人にお会いすると、「加納先生の所は、中国人富裕層を抱き込むメディカルツーリズムで、ガッポリ稼いでいるそうですね」と言われるので、それがとても嫌でした。実際に私が関与していた方々は、中国で手術を受けたが満足していないので、手術のやり直し、あるいは追加手術を希望して来院されるタイプでしたので、私の前任地で、検診でガッポリ稼がせていただいて手術にもっていくパターンはほとんどありませんでした。もちろん、手術を実施するために必要な術前検査をお受けいただくのは、日本人患者さんと同様です。

とにかく現在は、インバウンドが注目され、アウトバンドへの注目度が低いように感じます。

最近の日本の若者は外へ出たがらない、と言われていますが、2018年12月27日の朝日新聞の記事によりますと、若者たちの出国率でみると、それほど下がっているわけでもないようです。ただ諸外国と比較すると、外国へ出かける若者の数が格段に少ないことは指摘されています。

高度成長期時代に、豊かになった日本の若者が大挙して海外旅行に出かけていたころとは、全く時代は変わっています。若者がアウトバウンドになりたがる必要のない時代になっているのです。

私にとっての青春時代は、まだ貧しかった日本の学生にとって海外旅行は手の届かない夢でしたから、いつの日か自分も海外に行きたいと夢をいだいていました。幸い、名古屋放送海外派遣学生の公募試験に合格し、1972年に初めて飛行機に乗り米国の土を踏むことができました。「少年よ、大志を抱け!」の時代で、今で言えば、この時が私にとって、アウトバウンドになる夢を叶えた時だったのだと思います。

現在では、いろいろな手段で海外の情報が入手できますし、わざわざ海外旅行をする必要がないのかもしれませんが、実際に外国へ行って、その土地の人たちと直に触れることにより、自分の国以外の人たちへの理解も深まるので、若い人たちにも、時にはアウトバウンドになってもらいたいです。

私は2回の脳出血後、妻から海外旅行に反対されていますが、必ず再開します。1993年に日本人として初めて米国外科学会インターナショナル・ゲスト・スカラーに選ばれたときの同学会の開催地がサンフランシスコでしたので、2019年の同地での開催に向けて準備をしたいと思っています。一緒に同賞を受けた、世界の7人の仲間たちとの再会が楽しみです。長年苦労をさせた妻にも、歴代の同賞受賞者達と配偶者が招待される昼食会に出席してもらいたいです。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

1月7日20時00分 546
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