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先回、私の父母が、それぞれ認知症とアルツハイマー病にかかっていることをお話しました。

2008年8月26日のニュースで驚いたのは、マーガレット・サッチャー元英首相(82)が認知症であることを娘さんが明らかにしたというものです。

「鉄の女」と呼ばれた、あの手ごわい政治家も認知症になって家族を落胆させるのかと思うと、歳をとることの悲しさが痛感されます。

ロイター通信によりますと、これはサッチャー元首相の娘、キャロル・サッチャーさんが明らかにしたものですから、間違いない事実でしょう。82歳になったサッチャー元首相は物忘れをすることが多く、同じことを繰り返し聞くといいます。キャロルさんは新聞に連載している回顧録で「調子の悪い日は、ひとつの文を言い終えないうちに、何を言っていたか分からなくなることもある」と書いていますから、かなり重症とみえます。

キャロルさんが最初にサッチャー元首相の認知症の兆候に気付いたのは、元首相が75歳のときだったそうです。昼食の席での会話で、フォークランド紛争とボスニア紛争を混乱しているのを聞いた際だったといいます。さぞかしびっくりしたことでしょう。あの強い女性の筆頭であるサッチャー元首相が認知症になっていると知って、そのとき「いすから落ちそうになった」と表現していますから、その驚きの様子が目に浮かぶようです。来月出版される本に、「母が言葉や記憶を取り戻そうと苦しんでいるのが信じられなかった。母は75歳だったけれども、私は、いつも彼女は年齢や時など関係ない存在だと思っていた」と記していますから、「母が認知症になった」と知った時のショックの大きさが推測できます。サッチャーさんは、2003年に夫が他界しているのに、それを忘れてしまうというのですから、娘さんの辛い気持がわかります。

ロナルド・ウィルソン・レーガン元米国大統領(Ronald Wilson Reagan、1911年2月6日―2004年6月5日)は自分がアルツハイマー病にかかっていることを発表して、当時、ニュースになりました。

彼は1980年に行われた大統領選挙で現職のカーターを破って当選しましたが、米国の歴史上、最年長で選出された大統領(69歳349日)でした。2期8年間大統領を務めて退職しましたが、4年後の1992年、彼はアルツハイマー病と診断されました。病は年を追うごとに前大統領の脳を破壊していき、彼は静かでプライベートな環境で余生を送ることを余儀なくされたと言われています。ウイキペディアによりますと、妻は自宅にホワイトハウスの執務室を再現し、レーガンはそこで新聞を読むなどの「執務」を毎日数時間行うことにより症状の進行を食い止めたといいます。私の記憶に鮮明に残っているのは、1994年11月5日、彼は国民にあてた手紙という形で、アルツハイマー病の病状を公表したことです。これ以上、病気が進むと自分の意思表示をする機会を失すると思ったのでしょう。感動的な決断でした。レーガンの最後のメッセージとなった、『I now begin the journey that will lead me into the sunset of my life. (私は今、私の人生の黄昏に至る旅に出かけます)』という言葉は、多くの人々に深い感銘を与えたことは言うまでもありません。

レーガンでもサッチャーでも、アルツハイマー病や認知症にかかっていくのです。私の父母が同様の病気になっても当然のことと思わなければなりません。そしてそれは10年後あるいは20年後の自分の姿であると思わなければなりません。90歳過ぎてもなお矍鑠(かくしゃく)とした方もおられますが、それは稀な例と理解すべきでしょう。70歳過ぎたら認知症やアルツハイマー病になられても当然のことと思って社会の皆がそういう人を労っていくべきでしょう。それができる日本社会であってほしいと思います。

08年9月1日 20,854
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