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携態勢作りの重要性

奈良県で流産した妊産婦がすぐに病院に収容できなかった事例が、大きな問題として取りあげられています。厚生労働省の新大臣・舛添要一さんが荒井正吾奈良県知事に会って事件の経緯と対策について協議したというニュースもありました。

奈良県では似たような事例が昨年もあったため、さっそく新大臣が今回の事例の背景調査を命じたというわけです。

今回の事例について、奈良県立医科大学病院は、当時、医師がどれほど忙しかったかを詳細に経過報告し、こうなった経緯を説明しています。夜間も一睡もしないで働き続け、そのまま翌日の業務に入っていく内容をみれば、現場の手一杯の状況がだれにでもよくわかり、「少し待ってほしい」「後にしてほしい」という返事をしてもやむをえないのがわかります。

それではどうしたらよいか、ということになると、何と言っても医師個人を責めるのではなくて、「態勢を作る」ということが重要です。しっかりした態勢をつくらないと、現場の医療者がいくら死のもの狂いで頑張っても、悲しい結果になります。奈良県の産婦人科医の家庭でも子どもは生まれます。医師の家族もその他の家族も同様の危険にさらされているという視点も忘れてはなりません。医師と医師の家族も、その他の国民と同様に患者と患者の家族になることを忘れないでものをみてほしいものです。

今回の事例の報道でも、「今回も連繋が悪くてこのような悲劇が起きた」と結論付けられるものが多いようです。S新聞のように「妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち」と医師個人を責めるような表題の社説を載せているところさえあります。同紙の社説の見出しを見たときには、マスコミが医療崩壊を助長しているのを実感しました。医師と患者を対立軸に置いた報道で読者の興味を引く姿勢は改めてほしいものです。

「ベッドが2床空いていたのに断った」という報道も見ましたが、すでに来院しておられる他の患者さんの診療で手一杯の所に、ベッドが空いているからといって入院だけさせて、そのまま待たせておいた時に、何と言って非難されるのかを想像すると、恐ろしくなります。

舛添厚労相は緊急時に都道府県境を越えた広域で妊婦を受け入れる態勢を強化していく考えを示し、荒井知事は、救急と病院の意思疎通や、かかりつけ医のいない妊婦の搬送システムなど、今回明らかになった問題点を説明し、9月7日に発足させる再発防止に向けた同県の検討委員会への厚生労働省職員の参加を求めた、と報じられています。役所として教科書とおりの理想的な答弁で、非難すべき所はありません。

患者に安心できる医療を供給するためには、現場の医師達にまともな労働環境を提供することも重要です。もうこれ以上、現場の医師へしわ寄せがいかないように態勢を作らないと、産科医療の崩壊のみならず、日本の医療全体の崩壊につながるでしょう。舛添厚労相の力の見せどころです。期待を裏切らないでほしいと願っています。もう遅いかもしれないと危惧しつつ。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年9月10日 12,130
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