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安倍晋三総理大臣が辞任を表明したため、自民党は後任の総裁選出で大変でした。おかげで国会は空転して費用がかさむばかりだとマスコミも問題視しています。最近の安倍さんの様子を見ていて、近いうちに逃げだすだろうと思っていたのですが、案の定でした。

その安倍さんに代わる自民党総裁の福田さんにも、医療従事者および患者の私としては、「医療崩壊を避けるために、低医療費政策をやめて、福祉目的に消費税も大幅に上げる」と勇気をもって言ってほしいと思っているのですが、もうひとつ歯切れが悪いですね。

先日当院を見学に来られた舛添要一大臣も、「消費税を上げるというと選挙に落ちちゃう」と冗談めかして言っておられましたが、ここはひとつ、あらゆる政治家に国家百年の計に立って、「医療崩壊を避けるため、国民の真の幸せのため、医療費を上げる」と勇気を持って宣言してもらいたいものです。

ここでやらないと、もう回復のチャンスはありません。医療機関の経営は完全に限界に来ています。現在の医療費で病院の職員数を増やせといっても、ない袖は振れません。

かつてNHKの「クローズアップ現代」という番組で癌の特集を組んだことがあります。その中で、私がそれまで賢い人だと信じていた女性キャスターが「遅れている日本の癌医療」という言葉を繰りかえし使っていました。どうにも腑に落ちないのでよく観ていますと、結局は、日本の病院では各部門でこんなにも人員が少ない、ということなのです。日本人医師の手術がヘタだとか、診断能力が低いということではないのです。

このキャスターは、今の日本の医療費ではそんなに多くの人員が雇えるはずがない、と十分に分かっているはずの人なのです。その人が、視聴率をあげるためのマスコミの作戦とはいえ、あそこまで日本の医療者を貶める行動をする(言わされている)ことに、怒りを覚えるのを通りこして、絶望感に打ち拉がれました。

日本国民もここらで、耳触りのよいことを言う政治家ばかりに投票するのではなくて、国民に負担を強いる発言をする、勇気ある政治家を選ぶ覚悟をしなくてはなりません。医療費が上がって、GNPに占める国民総医療費の割合が米国並みになることを受けいれる覚悟をしなくてはなりません。このまま医療機関、医療者側にしわ寄せが行きつづければ、医療者が現場から立ち去る結果となるのは目に見えています。

こういうことをいうと、「お前は自分が医療従事者で患者じゃないからそんなことが言えるのだ」と思われるかもしれませんが、医師といえども他の国民と同じ頻度で病気になり、介護を要する老人や病人を抱えているのです。医療従事者も同じく患者とその家族の立場にいるのだということを御理解ください。さらに医師の場合は患者さんへの責任がありますので、病気になっても仕事を休むわけにはいかない事情もあるのです。

マスコミ関係者には、いつまでも医師と患者を対立軸において面白おかしい番組作りをするのではなく、真に日本の医療のためになる報道を心がけてほしいものです。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年9月24日 12,230
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