企画・エッセイ » 記事詳細

9月25日の本コラム欄で、あらゆる政治家に国家百年の計に立って、「医療崩壊を避けるために、低医療費政策をやめて、福祉目的に消費税も大幅に上げる」「医療崩壊を避けるため、国民の真の幸せのため、医療費を上げる」と勇気を持って宣言してもらいたいと申しあげました。これまで消費税を上げることをほのめかす政治家も小数ながらいましたが、どれももうひとつ歯切れが悪い言い方でした。

しかし、やっと政府も政治家もこの問題に触れてくれるようになりました。読売新聞は10月20日付の社説で、「消費税率の『封印』が解かれた」と表現しています。内閣府が、年金、医療などの社会保障給付と財政や負担の関係について、3種類の将来試算を経済財政諮問会議に提出し、「税と社会保険料を合わせた国民負担を増やさなければ、現在の給付水準を維持できず、財政赤字も拡大する」という厳しい現実を指摘しています。

福田首相は、「問題を先送りすれば、(増税か給付削減かの)選択肢はさらに厳しくなる」と述べ、あえて負担増を巡る議論に踏み込む決意を示したのです。

私は今回の福田首相と政府の勇気ある行動を歓迎したいと思います。小泉首相は「自分の在任中は消費税率を引き上げない」と宣言していました。また安倍首相は「歳出削減を徹底し、できれば消費税率引き上げを回避したい」という基本方針を維持していました。どちらも自分の任期中だけ選挙民に耳触りのよいことを言って人気(任期)を維持しようと言う姑息的、無責任な態度であると私は不満に思っていました。

経済財政諮問会議に提出された3種類の試算の中で、注目したいのは「負担増で給付を維持するケース」と「給付削減で負担を維持するケース」を比較し、2025年度までの国民負担と給付水準の変化を計算したものだと思います。

前者では、25年度には国民負担が高成長下で11兆円、低成長下で12兆円増えるうえ、財政赤字の拡大を防ぐために、合計で14〜29兆円の増税が必要になるとしています。

後者の場合、25年度の給付は現状より実質約3割削減され、赤字抑制に8〜24兆円の増税も必要となります。どちらの場合も、国民は厳しい生活を覚悟しなくてはならなりません。

いずれにせよ、これが現実なのですから、我々国民もよく考えて選択しなくてはなりません。ちなみに内閣府は2005年10月24日に、「高齢社会に関する世論調査結果」を発表し、「現役・将来世代の負担が増えても、社会保障の水準を維持・拡充すべきだと考える人が66%を占めた」と報告しています。2年前の時点でも、すでに国民の多くは負担増を覚悟していたのです。

内閣府が財政の将来試算の中で、増税の必要額を明示したのは今回が初めてのことです。医師不足、介護給付増大などで揺れる社会保障制度を守るため、一定の歳出増も検討せざるを得ない状況になっているがよくわかります。政府もあとがないと自覚してきたと言えます。「高成長による税収増と歳出削減で財政を再建できる」などという甘い議論は一蹴される時が来たのです。

テレビをみていたら、この期に及んでも民主党は「消費税率を引き上げなくても社会保障制度を維持できる」などと言っていますが、なんとも甘いことだと思います。これまでの多くの自民党議員が選挙向けに言っていたことと同じではないですか。今回の試算をしっかりみて、現実的な考えを持ってもらいたいものです。

* * *

加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年10月30日 10,821
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved