企画・エッセイ » 記事詳細
山中に現れたレストラン「ジェノバ」の門

山中激歩連載【第21回】

(21)大崩からジェノバへ

ここまでのべ5日間歩いた、山中激歩もいよいよ最終日。鋸南町大崩から郡界尾根を越えて、三浦一族の三郎光村の館があったという三浦三郎山(標高281メートル)までを歩く。いまでも鎌倉街道の要素が色濃く残るルートである。

大崩公民館から町道を東に向かう。町営バスの車庫を過ぎ、民家2軒を過ぎた防火水槽の角を右に登る。コンクリートのしっかりした道だ。

道は小さな峠になっていて、すぐに左に折れると、ここに句碑が立っている。西を向いた面に芭蕉の句「いざさらば雪見に転ぶ所まで」、裏面に地元俳人・亀甲の「笠雲を富士は外して小春風」と刻まれている。明治10年の文字も見える。この小さな峠からの眺めは、晴れれば正面に富士山が座るという。明治年間の地元の俳人が、芭蕉の句とともに、自作の富士の句をこの地に捧げたのであろう。これまでの房州古道の行程で、いくつかの石碑や観音があったが、句碑は初めてだ。大崩の地に風流な俳人がいたということだ。

小さな峠に立つ芭蕉の句碑

この句碑に「いざさらば」して、東へ進む。きれいに草刈りがしてあるので、歩くのが大変気持ちいい。

南側に佐久間ダム湖の水管橋が見える。反対側には姿の美しい峰山がある。さらにこの先が、町道湯沢トンネルの上を行く道となる。

ここから先は少し荒れていて、竹やぶの中を進む。菅野さん、山口さん、川崎さんの3人が鉈鎌を出して、竹を切りながら進む。露払い、太刀持ちの後を行く横綱のようで、申し訳ない気がするが、ベテランの先導なので、安心この上ない。

竹やぶの中は、鋸南町の境界杭が打ってあるので、ここが赤道であるのがわかる。途中、ガードレールを使った小さな橋もあるし、竹を切った跡があるので、いまでも誰かがこのやぶの中を歩いているのだ。

やぶこぎを続けていると、やがて林道金銅線に出る。林道を少し歩いて、すぐに右へ下る道へ。

杉林の中を行く道で、下草にハランが植えてある。雨上がりなので、下がどろどろ。ここにも境界杭があって、赤道なのがわかる。湿った道を慎重に下っていく。

やがて目の前に小さな棚田が現れる。やぶの暗さから一転、ぱっと視界が開ける。小さな田はみんな苗が植わっていて、棚田の美観が維持されている。この山中で棚田をうない、苗を植える。そんな農家のことを思うと、頭が下がる。

田の斜面を上がって、コンクリート道に出る。農作業小屋があって、さらにその上にも人家がある。ここがイタリア料理やパスタでおなじみの「ジェノバ」である。

イタリアの三色旗をイメージした門がある。長狭街道から車で登ってくると、たいそう奥にあるような気がするが、大崩からの山道を登ると、歩いて1時間。それほど時間を感じさせない距離である。

道を挟んで門の反対側に、「光明真言」の石碑があって、周囲はよく草刈りがされている。現代のレストランと時代を感じさせる石碑。山の中に歴史を映す鏡があった。

(つづく)

【写真説明】小さな峠に立つ芭蕉の句碑

【写真説明】山中に現れたレストラン「ジェノバ」の門

07年7月26日 72,448
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved