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林道カーブからの嵯峨山ピーク

【第9回 生々しいイノシシの跡】

(9) スイセン谷へ

嵯峨山ピークを北へ降りる。ここから先は尾根が広く樹木も茂り、踏み跡もない。一般的な登山ルートは、スイセンピークへ戻る往復コースである。ベテランの案内がなければ、迷うルートだ。

やぶこぎ気味なので、革手袋を装着。急な下りを木につかまりながら降りていく。途中、トリカブトの紫の花を見つけた。猛毒の山野草だが、花は上向いてかわいらしい。

下っていくと、樹間に釜ノ台の集落が見え出す。嵯峨山ピークから30分ほど歩いた場所に、世にも恐ろしい場所があった。広い尾根のカヤの大木にイノシシが体当たりした跡がある。人間の目通りの高さまで樹皮がはがれ、泥が塗りたくられている。山の中では泥が塗られたような樹木をよく見るが、これはヌタ場で泥を着けたイノシシが、こすりつけたもの。普通は1頭の跡だが、このカヤの木は違う。

何頭ものイノシシが、競い合うように体をなすりつけ、あるいは体当たりしている。樹皮ははがれ、木の周囲の土は運動場のように乾いている。野生の道場なのか、それとも社交場なのか。何とも恐ろしい光景だ。

尾根が広くて道に迷う。そのまま降りて林道に出るが、本来の登山口より南側に出てしまい、嵯峨山の難度に思いをめぐらせる。すぐ右に廃屋を見て、さらに林道を歩く。小さな建物があるが、これが釜ノ台の公民館だという。左に蔵のある農家を見て、さらに行くと、林道カーブになる。ここからの嵯峨山の眺めがいい。特徴ある山頂の姿がよく確認できる。

林道を30分ほど歩くと保田見で、三浦三郎山への分岐。「房州古道を往く」の終着地点でもある。この分岐から10分で、鋸南町の瀬高への分岐になる。林道から右手に下れば、瀬高を経て市井原へ出る。

そのまま林道を歩くと、横根への分岐点になる。ここからの眺めが素晴らしく、富山、伊予ヶ岳、御殿山などの峰々が並ぶ。水墨画のような眺めである。

林道を外れ、横根への尾根道を行く。分岐から25分で、石宮のある無名ピークに。ここからは津辺野山がよく見える。眼下には横根の集落。深い緑に紅葉のアクセントがいい。

尾根筋を下って30分。ようやくコンクリート林道に出る。ここは横根集落からの上りのルート。郡界尾根をいったん南へ出たことになる。しばらく南に歩くとスイセン谷がある。広大な斜面にスイセンが植えられ、落葉樹が里山の趣を深める。ここも花の時期になれば、芳香とともにスケールの大きな美しい景色となるのだ。

正午を過ぎたので、ここで昼食となった。

(つづく)

08年1月14日 20,053
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