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2段に滑り落ちる道止滝

高い山のない房州にも、楽しい低名山(ひくめいざん)があること、火山帯のない房州にも、沸かし湯の温名湯(ぬくめいとう)があることは、過去の連載でお分かりいだたいたと思う。では、滝はどうだろう。標高が低い山ゆえ涵養される水分は少なく、全国の名だたる名瀑には及ばない。が、山や湯と同じように、静寂の中に流れ落ちる滝が数多く存在するのだ。この連載ではそんな房州の「寂名瀑」を訪ねてみる。山歩きと同じく、沢登りをする場所もある。危険が伴うので訪れる場合はくれぐれも十分な装備で。房州の梅雨明けももうすぐ。今夏の猛暑を美滝の写真と記事で楽しみ、少しでも涼しくなってもらえれば、と思う。(忍足利彦記者)

【原則として日曜日に掲載します】

[第1回] 道止滝・どうどめだき(鋸南町市井原)

県道下に2段の美滝

郡界尾根に源を発し、主要地方道鴨川保田線(長狭街道)を縫うように流れる保田川。この上流域に、2段の美しい流れを見せる。高さは5bほど、幅は滝つぼ上で10bほどある。水流の多いときは、幅いっぱいに広がる美滝である。

実は小紙連載「房州古道を往く」の平成19年7月28日付でこの滝を「市井原の滝」として紹介したが、大正15年発行の「安房郡誌」には、道止滝として掲載されている。道止滝が正解である。

保田川は並行して走る長狭街道に何度かクロスする。それが橋だったり、暗渠水路だったりする。蛇行する川に対し、人工道路は直線に設計される。川を橋で越え、暗渠でやり過ごす。

市井原での保田川は、県道の下をくぐっている。その直後、水は2段の岩肌を滑り落ちる。川幅はこの岩場で狭まるから、滝の水量も一気に増える。やさしい保田川の流れも、ここでは一気に激流と化すのである。

滝へは県道の南側から下りる。石の構造物(通称・上人塚)がある田を右に見て、草の道を注意して下りていくと、3分ほどで川面に着く。滝つぼから下流は流れが緩やかで、岩場もあり、ここから滝を眺める。ダイナミックな流れが、県道直下の川とは思えないのである。

上流も県道下とは思えぬ眺め

地元の年配者に聞くと、ここは古くから子どもの遊び場で、滝上から滝つぼに向って飛び込む「度胸試し」もあったという。

県道沿いには駐車スペースがないので、安全な場所に止めて、歩くといい。ダンプカー銀座でもあるので、県道は注意して歩きたい。

道止滝の名は、古い道をここで滝が止めていたゆえだろう。川の流れは滝となって道を越え、水量が多ければ道を止めてしまうほどなのだ。市井原の北側は瀬高経由で、梨沢に出る古道である。頼朝伝説の残る、房州と江戸を結ぶ道だ。近代になって自動車が通るようになり、道が改修され、現在の姿になったのだろう。

現代の土木技術は、川回しなど容易なこと。道にかかる川があれば、川を止めて道をつくる。「滝止め道」の構図である。林道工事で消えてしまった滝は、全国ではかなりの数にのぼるという。

それまでは道を止めていた滝だった。そう思うとロマンが深まる。近くに上人塚なる構造物があるのも、歴史を感じさせる。

【写真説明】2段に滑り落ちる道止滝=鋸南町市井原

【写真説明】上流も県道下とは思えぬ眺め=同

09年7月12日 10,116
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