企画・エッセイ » 記事詳細
急激な越の下の滝=鋸南町大崩

[第2回]乙井沢の滝 (鋸南町大崩)

ダム上流に秘めた滝

佐久間ダムは平成4年に完成した、佐久間川の源流部分を堰き止めた農業用人造湖。その佐久間ダムの上流に、隠れた名瀑がある。古い文献では「仏沢の滝」だが、佐久間ダム湖観光生産管理組合(石井廣一組合長)の現地の看板では、乙井沢の滝となっているので、本紙ではこれに倣(なら)おう。乙井沢(音井沢とも表記)はこの滝の近くにある家の屋号だ。

滝はそのままダム湖に流れ込むので、滝下に行くのは貸しボートを借りるしかない。上流から下るルートがあるが、極めて危険なのでベテランと一緒に歩きたい。

ダム湖の奥まった部分に高橋尚子・小出義雄師弟の石碑がある一角がある。ここから林道のような道を上り、大きなケヤキの角を右に折れると、左へ下る道がある。組合の看板があるので、これを目印に下っていく。

左に田の跡のような農地があり、この先を川底に下りる。滑らないよう慎重な足運びが必要だ。田の跡下に樋のような細い流れがある。これを「越(こし)の下の滝」と呼ぶ。大ケヤキの近くにあった家の屋号が越(現在は更地)。その下にある滝という意だ。幅は0・5b、長さは5bほどだろう。急流が岩肌を削り、細い流れとなる。かつてはこのトヨ状の滝に水車が据えられ、精米などに活用されていた。

黒っぽい岩肌の乙井沢の滝=同

この滝をやり過ごすと、右岸にコンクリート構造物がある。硫黄の湧き出る岩を囲んで、ここが鉱泉となっている。塩ビ管で下流に流れていくので、誰かがこの源泉を活用しているのだ。

そのまま川を下ると障害物があるので、右岸を高巻きにして山を登る。やぶをかき分けていくと、細尾根になり、ここに石宮が2つ鎮座する。滝の真上だから不動明王だろうか。銘は薄れて読めないが、そばに手水鉢もあることから、かつては信仰も深かったのだ。

細尾根を注意して下りると、そこが滝の真上だった。幅は5bほどで黒っぽい岩肌に沿って静かに水が落ちていく。岩肌に広がっていく流れが、音もなく続く。瀑布という形状ではなく、岩に沿って音もなく落ちていくのだ。こういう滝は房州でも珍しいだろう。

高さは10bを超えるだろうか。注意して滝上に進むが、滑ればひとたまりもない。そのまま滑落してダム湖に沈めば命はない。危険なので近づかないほうがいいだろう。

こんな立派な滝なのに、2万5000分の1地図には滝記号もない。ダムの完成で人々から忘れられてしまったか。房州にはこんな滝が人知れず存在するのだ。

土地の古老に聞くと、家の屋号は「ホトイザワ」、漢字で「仏沢」。これがオトイザワに転じたらしい。

危険なので、眺めるには貸しボートを使うのが無難だ。

【写真説明】急激な越の下の滝=鋸南町大崩

【写真説明】黒っぽい岩肌の乙井沢の滝=同

09年7月21日 8,349
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved