企画・エッセイ » 記事詳細
沢筋がそのまま滝になる=南房総市井野

[第7回]滝の沢(南房総市井野)

歴史ロマンの残る滝

富山地区には、川上の大滝のほかにも隠れた名瀑がある。伊予ヶ岳と富山という2つの低名山を抱え、涵養される水量も多いのだろう。滝の沢は、地元で「たいのさ」と呼ぶ隠れた滝だ。滝の沢はまた、この地の小字でもある。

主要地方道鴨川富山線(通称・二部街道)の伊予ヶ岳からの坂を下った先の平地が、井野集落である。井野バス停から北へ入ると、酪農家が点在する。左手に井野集会所を見て、この角を左へ進む。最後の酪農家が左手山すそにあり、この前に小さな沢がある。砂防堤があって地すべり対策地帯であるのがわかる。

工事の施されたこの沢を右に渡って山へ入る。すぐに硫黄の湧く斜面があって、さらにやぶをこいで進むと、右手に壮大な岩肌が現れる。高さは30bほどだろうか。雨の日でも水量は少なく、ちょろちょろ流れる沢だが、立派に滝となって長い岩肌を滑り落ちている。まさしく「滝の沢」である。

岩肌に残る「頼朝名馬の蹄跡」=同

滝の上に木がかかって、全体が薄暗い。滑りやすい岩肌で、沢の右側に道らしきものがある。苔むして弱い地盤だ。危険なので初心者は歩かない方がいいだろう。

注意して岩を登る。滝そのものは黒い岩肌をなめるように滑り落ちる。滝中央の大岩には、いくつかの穴がある。地元ではこれを「頼朝名馬の蹄(ひづめ)跡」と呼んでいる。

この滝の右側は古道になっていて、昭和40年代までは平群地区と佐久間地区を結ぶ生活道路だった。上流には水田やカヤ場があって、耕作のために人が歩いたほか、昭和の中ごろまでは、通学にも使われていたという。歴史ある古道なので、頼朝名馬が歩き、この滝の岩に蹄跡を残したということだろう。歴史ロマンに浸れる滝である。

滝上に出ると、古道は沢筋の左側になる。渡河したわけだ。自然の沢筋とは別に、人工的な溝が掘ってあり、水源からの水はこちらを流れている。本流の滝の水量が少ないのはこのためだろう。

滝下から10分ほど歩くと、コンクリートの林道に出る。すでに道は荒れてしまい、耕作されていたであろう田も、やぶと化して姿はない。だが、ここが滝の沢の上流部分である。

荒れた林道を進むと、嶺岡中央林道へ出るが、きょうは沢を戻る。この林道こそが平群と佐久間を結ぶルートの名残だろう。

雨が降り出し、いっそう滑りやすい。注意して滝をくだり、井野集落へ戻る。往復40分ほどの滝めぐりである。

この沢は井野の平地で岩井川に合流する。井野は水豊かな地である。

【写真説明】沢筋がそのまま滝になる=南房総市井野

【写真説明】岩肌に残る「頼朝名馬の蹄跡」=同

09年8月24日 7,412
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved