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行く手に現れるトンネル

[第19回] 大川の滝―おおかわのたき―(南房総市千倉町大川)

複雑な形状をもつ秘滝

房州に寂名瀑は数あれど、これほど複雑な形状をもつ滝は珍しいだろう。

堰の下流という構造も手伝って、人の手が適度に加わった美滝である。滝の下部には樹木が覆いかぶさり、現在は下から滝の姿が確認できないが、かつては千倉地区を代表する名瀑で、バス通りに観光バスが止まって観光案内するほどだったという。

大川地区の細い道を歩く。クルマがすれ違えないほどの幅だから、ハイキングがてら歩く。最後の民家を過ぎたところで、右に分け入る道があるが、非常に分かりずらい。この先も滑る場所があるので、道も含めて滝全体の危険性が高い。

古道のような道を歩くと、5分ほどで手掘りのトンネルになる。この山の斜面でトンネルに出合うとは驚きだ。上流の堰の保守管理のため、地元の人はいまもこのトンネルを通って上へ歩いている。

中段の滝つぼに落ちる水

トンネルを出ると、すぐ左に滝つぼが確認できる。この滝つぼは中段のもので、この上にもうひとつ滝つぼがあり、左股の流れが2段になってまとまって落ちる。右股の流れは人工的な河川で、堰からの水がトンネルを通って滝つぼへ注ぐ。中段の滝つぼは、二股が合流し、さらに下流に落下していくのである。

右股の人工河川のトンネルをくぐって、中段の滝つぼへ下りる。その上には道のトンネル。ビルの合間を縫う首都高速のような立体構造だ。下流の水系は普通河川「かわしり川」で、朝夷地区の川尻川とは別の川である。

中段の滝つぼから下は、垂直に40bほど落下する豪快な滝だ。かつてはこの落水がバス通りから眺められ、観光名所となったのである。

つかまる手がかりもないが、同行の川崎勝丸さんが、記者(忍足)のベルトをつかんでくれるので、恐るおそる前へ出る。滝上部の最前列へ出て、真下を写真に収めるが、恐ろしくて足が震えた。ベルトの手を離されたら一巻の終わりである。この垂直落下は、華厳の滝のような姿をしている。惜しむらくは下から眺められないことだろう。

垂直に40bほど落下する大川の滝

滝上へ行くまでの道も危険だし、滝そのものも危険である。かつてはテレビクルーがこの滝を撮影に来たが、引き返したというエピソードもある。それほど危険なのだ。近づかない方が無難だろう。

歳月は滝を樹木で覆い、人を近づけなくした。この美滝の存在を知る地元の人も少なくなっている。

地元の古老は、この滝を「そうべいの滝」と呼ぶ。滝下の家の屋号からだ。住宅地図は「七浦の滝」としているが、ここは地元の呼称で、大川の滝としよう。

【写真説明】行く手に現れるトンネル=南房総市千倉町大川

【写真説明】中段の滝つぼに落ちる水=同

【写真説明】垂直に40bほど落下する大川の滝=同

09年11月14日 11,185
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