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静かに落下する新乙王滝

[第21回] 新乙王滝―しんおとおうたき―(南房総市千倉町大貫)

「七不思議」 今に伝える滝

紅葉で知られる千倉の名刹・小松寺には古くから「七不思議」の伝説がある。乙王の伝説もそのひとつ。平安時代の安房国司、小松民部の嫡男・千代若丸が、小松寺の稚児舞の際、いたずらな天狗にさらわれてしまう。なきがらは伊予ヶ岳近くで発見され、千代若丸の従臣、乙王は自責の念から、寺近くの滝に身を投じた。その滝こそが乙王滝である。

乙王の墓は平成9年に小松寺の上の尾根筋で確認され、地元の人たちによって周辺が整備された。乙王が身を投げた滝も探索されたが、比定できなかった。農業用堰の小松堰が築かれたことから、水没してしまったとみるのが通説だ。堰近くにあるこの滝が乙王滝ではないかとされるが、はっきりしないことから、地元では現在「新」の文字をつけて、看板を出している。

小松寺を右に見て、さらに林道小松線を進む。館山市畑へ向かう道だが、小松寺から500bほどの場所に、地元の立てた看板が出る。これを目印に右手に竹やぶを下りていく。

小松堰への管理に使われているのか、道は狭いが歩けないことはない。踏み跡もしっかりした小径である。100bほど緩い下りを行くと、竹やぶ越しに左に堰の水面、右下に谷川が見える。

滝の下流は岩が溝状に切られている

古いコンクリートの小さな堰堤を越えて対岸へ上る。やはり小径があって、ここを下流域に進むと、右手眼下に小さな滝がある。堰の余水吐けがそのまま滝となる形だ。取材日は雨上がりで、それなりの水量があった。

幅は1b、高さは8bほどか。小さいながらも岩肌に沿って落ちる美滝である。滝つぼの上流側にまだ小さな流れがある。ここは瀬戸川の源流部分にあたり、この先は館山市畑の集落である。滝つぼから下は岩が溝状に切られ、下流へ向かう。

この上流側から写真を撮影しながら、身を投げたという乙王のことを思う。その律儀さは小松寺の伝説となっていまに残る。

この川は林道に沿って流れ、一部は暗渠となって下る。小松寺前で岩肌を洗うような流れとなって現れる。小松寺は紅葉の名所でもあり、晩秋には大勢の人でにぎわう。この名刹にしばしたたずみ、往時を偲ぶのもまた楽しい。

【写真説明】静かに落下する新乙王滝=南房総市千倉町大貫

【写真説明】滝の下流は岩が溝状に切られている=同

09年11月28日 10,195
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