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坊滝を思わせる美しい姿の釜淵の滝

[第22回] 釜淵の滝―かまぶちのたき―(南房総市山田)

消滅しておらず心打つ滝

インターネット上の情報は、玉石混交である。虚か実か。その判別はつきにくい。滝の記述も同様だ。林道工事で大破、ダムで埋没・破壊などの滝情報もある。平久里川上流の大谷川ダムに流れ込む沢の滝群も、ネット上では埋没したことになっている。が、実際に足を運べば、そこに複数の美滝が存在していた。

南房総市山田に生まれ、子どものころからこの上流で遊んだ、川名定夫さん(75)が、その秘滝を案内してくれた。林道はやぶだらけ、ザイルを使って20bも下るような危険な滝である。

旧富山町の上水道の水源である大谷川ダム。平久里川支流の大谷川を堰き止めて完成した。ダム工事と周辺の林道工事で、いくつかの滝が消滅したというのが、ネット上の通説だった。確かに林道は川筋を変え、小さな堰堤をつくり、ヒューム管で水脈を導いた。が、滝そのものは消滅しておらず、現在も脈々と流れている。

ダムを左手に見て、路肩が崩落した、やぶだらけの林道を歩く。一般の人は危険で歩けないだろう。

10分ほどで右手から左手に落下する流れがある。これが湯の滝だ。林道開削のため、川筋にヒューム管を据えて、下流側にはコンクリート堰堤がある。上流側のヒューム管は土砂に埋もれてしまい、その上を滝が流れ落ちる。落差8bほどの小さな滝だ。まだ周辺が水田だったころ、硫黄成分の湯の花が浮いていたことからの名である。

小さいながら姿のいい釜淵上流の滝=

湯の滝から屈曲した林道を左手に進む。10分ほどで瀑音が聞こえる。林道のダム湖側に大きな落差があり、山側は落差8bほどのナメ滝になっている。林道から山側にナメ滝へ下りて、滝を遡上する。岩を巻いて左に上ると、目の前に落差10b、幅3bほどの豪快な滝がある。この滝上部からダム湖まで、滝は複雑な形をして流れ落ちる。総高低差は33bもあるだろうか。最下流にある淵を釜淵という。

釜淵の滝は、この林道下にある。立木にザイルをしばって、20bほど急な斜面を降下する。危険である。川底は小さな流れがあって、清流が保たれている。

崖を下りて上流に進むと、右手に黒い岩肌を伝う白い扇状の滝が出る。これが釜淵の滝である。高さ15b、幅は6bほど。水は白く美しく広がり、どこか増間の坊滝を思わせる美しい姿をしている。心打たれるような美滝で、これが消滅滝として扱われているのでは、納得のいかない話だ。

川名さんによると、この大滝の下が石畳の大きな淵で、これを釜淵と呼んだ。かつてはウナギの稚魚やハヤも泳いでいたという。林道下に潜む美滝を心に刻んだ。

沢筋は違うが、この上流には鍋淵の滝も存在する。大谷川は、滝の宝庫である。

【写真説明】坊滝を思わせる美しい姿の釜淵の滝=南房総市山田

【写真説明】小さいながら姿のいい釜淵上流の滝=同

09年12月5日 8,893
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