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2段に落ちる鍋淵上流の滝

[第23回] 鍋淵の滝―なべぶちのたき―(南房総市山田)

ダム湖上流に潜む秘滝

大谷川上流の滝めぐりは、ここからもっと難所となる。崩落した林道を何度か乗り越えると、川が道を横切る。ここもヒューム管が埋設されているが、すでに埋まり、川は道を流し去った上を流れる。

コンクリート堰堤の下流側は「くの字」に屈曲して、滝をつくり、岩の間を豪快に流れる。

まずは上流側へ遡行する。ゴロタ石や大岩の間を急激な流れが落ちていく。野趣にとんだ清流で、さすがは上水道の水源である。

滑らないよう注意して岩の間を行くと、やがて二股に分かれる。左股をしばらく行くと、土砂に埋まった大きな淵がある。岩肌が円形に削られていて、鍋のようだ。これが鍋淵といわれ、古くは雨乞いの場所だったという。その昔は深い淵だったというが、いまは土砂で埋まっている。

淵を回って左なりに進むと、高さ8b、幅5bほどの豪快な滝がある。2段になって落下する美しい滝だ。これが鍋淵上流の滝である。この先の尾根はもう御殿山(標高363・9b)の尾根筋となる。

豪快な鍋淵の滝に行くには、いったん流れを戻り、釜淵の滝から遡行することになる。

釜淵の滝を右に見て、土砂が堆積した川筋を歩く。清流なのはここも同じで、5分ほど歩くと瀑音が聞こえる。岩が切られたような崖面をS字に曲がると、正面に懸垂型の大きな滝が出る。これが鍋淵の滝である。

豪快に落下する鍋淵の滝

流れはコンクリート堰堤から落ち込み、大岩を迂回しながら大蛇のようにのたくって下る。この鍋淵の滝で垂直に落下し、豪快な音を立てているのだ。高さは6b、幅は2bほどだろうか。取材日は水量が多く、それはそれは見事な姿だった。

滝つぼも大きく形成され、スケールが大きい。御殿山直下から流れ落ちた水は、大蛇のようにのたくって、この鍋淵の滝になる。

地元の古老によると、人が行き来していたダム建設前のころ、この滝の側面岩盤に鍋淵の滝である旨の石碑があったという。四囲を見渡してもそれらしい石はなかった。崩落で埋まったか、落下したか、だろう。

この滝を確認するまで、記者(忍足)は二度ほど、この山深い沢に入った。案内してくれた川名定夫さんは5、6回も足を運んでいる。その川名さんが、滝の左側岩にカップ酒を据えた。ふとさとの山への鎮魂酒、滝に捧げる御神酒である。

林道で滝は一部姿を変え、川筋も変わってしまったが、大谷川上流の秘滝は、ダム湖の奥でいまも密かに美しい姿を見せている。

水源地でもあり、一般の人が足を運ぶのは遠慮したほうがいいだろう。

【写真説明】2段に落ちる鍋淵上流の滝=南房総市山田

【写真説明】豪快に落下する鍋淵の滝=同

09年12月12日 10,023
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