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深山幽谷を思わせる鯨岡滝の沢

[第3回] 鯨岡滝の沢(くじらおかたきのさわ,南房総市石堂)

里山にひっそり潜む滝

国土地理院の地図にないのが、房州寂名瀑の倣(なら)いだが、この滝の沢も国土地理院はおろか、住宅地図にも掲載がない。地元の人以外は知る由もなく、里山にひっそりと存在している。地元では単に滝の沢と呼ぶが、南房総市井野にある滝の沢と区別するために、ここでは便宜上、小字の鯨岡を冠にして呼びたい。

旧丸山町を南北に串刺しにするように伸びる国道410号。石堂寺や丸小学校から北に向かうと、そこが鯨岡の集落。数軒の農家があり、国道の東側に丸山川が流れる。小さな橋を渡ると、正面に経塚山の尾根が迫る。この山に丸山川へ流れ込む支流があって、ここに滝の沢が存在する。

農道を歩くと、左に古い地蔵がある。ここにも小さな橋があって、橋の上から無理やり沢へ下りる。倒竹のひどい沢を100bほど上ると、正面に深山幽谷を思わせる風景が出る。両側が切り立った岩で、苔むしている。すぐそばに水田や人家があるのに、この景色はなかなかのものだ。

切り立った岩がV字型に削れ、ここから一条の流れが落ちる。取材日は雨上がりで、水量も豊富。滝は3段になって、豪快に流れ落ちていた。上段はまさにV字谷からの流れで、高さは4bほど。次段が垂直落下で、8bほどか。最後は2bほどで大岩の間を清流が流れていく。高さの合計は14bほど。人知れず存在する滝にしてはずいぶん立派である。

滝中段部は垂直に落下する

上流を見ようと、沢のわきにある道を歩く。この沢はかつて、近くの農家の飲料水として利用されていたから、現在も塩ビ管が何本もある。沢わきの道はこうした水源への管理の道である。滝そのものが危険な場所にあるうえ、飲料水の水源である。道も滑って危険である。接近危険滝としてもよかろう。

その道を慎重に歩くと、やがて滝上に出る。ここから眺める上段も見事な姿である。その上は小さな沢になっていて、100bほど遡行すると、いくつかの塩ビ管の流入口がある場所になる。ここが水源地であろう。この地元の人に尋ねたら、この水は現在も手洗い用に使っているという。

源流部は経塚山の西尾根。水源ゆえに人が近寄らない。誰でもが見られる滝ではないが、それだけに貴重な存在であろう。

農道へ戻ると、農地にトラクターのエンジン音が響いていた。滝の水は生活に生かされ、農家にとって不可欠な存在であった。

【写真説明】深山幽谷を思わせる鯨岡滝の沢=南房総市石堂

【写真説明】滝中段部は垂直に落下する=同

10年7月10日 8,626
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