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樹木の中を落水する皆倉の滝

[第5回] 皆倉の滝(みなぐらのたき,南房総市珠師ヶ谷)

日照り時に出る幻の滝

珠師ヶ谷の佐久間和夫さんは、地元にもうひとつ、隠れた滝があると教えてくれた。温石川の右股上流に位置する皆倉の堰(所在地は和田町黒岩)から、落ちる滝である。

隠れた滝と表現したのは、普段は落水しないからだ。皆倉の堰の栓を抜いたときだけ、垂直に落下する。この堰は珠師ヶ谷側の農業用堰だが、普段は使われていない。ひどい日照り時に非常用として水を落とし、珠師ヶ谷の水田を潤す。めったに現れない幻の滝なのである。

堰の東側にトンネル水路があり、栓を抜くとこの滝に流れ落ちる。12bほど垂直落下した後、ゴロタ石のような斜面を水が流れ、コンクリート林道の下をパイプで通り、温石川に注ぐ。

ひと筋の白い流れが、垂直の岩場を駆け抜けていく。その様はまさに、幻の滝である。白い流れは絹糸のようになって緑の周囲に染まる。ソーメン流しのような涼しげな様式美だ。

温石川は複雑な水利構造をもつ。上流域の珠師ヶ谷地区で、3つほどの川堰がある。川の流れを堰き止めて、パイプラインで田へ給水していく。象徴的なのは、水路トンネルで東側の一ノ沢堰(小戸所在)へ注ぐ部分だろう。豊富な水量は流域だけでなく、尾根の下を縫って、他地域へも給水されているのだ。

静かに水をたたえる皆倉の堰

丸山町史によれば、この川堰には「一ノ関」から「四ノ関」まであり、そのうち、3つは現在も使われている。豊かな水系はそのまま豊かな水田につながっているのだ。

堰から岩場を垂直落下する滝を見上げていると、華厳の滝のミニチュア版のようにも見える。周囲は樹木で覆われ、人を近寄らせない。華厳の滝と比べれば、かなり小さい滝だが、幻の滝となれば、話は別である。めったに見られない美滝を見上げながら、この地の水利に思いを寄せた。

林道を珠師ヶ谷へ戻り、ふるさと学舎方面にコンクリート坂をクルマで上がる。この施設の下に満々と水をたたえた皆倉の堰があった。佐久間さんと2人で堰を眺め、どこか落ち着いた雰囲気になった。

【写真説明】樹木の中を落水する皆倉の滝=南房総市珠師ヶ谷

【写真説明】静かに水をたたえる皆倉の堰=同市和田町黒岩

10年7月24日 8,445
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