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半筒形の岩穴の中を一条に落ちる門滝=南房総市池之内

[第12回]門滝(もんたき)(南房総市池之内)

個人宅内の文化財的滝

前編・後編通じてさまざまな滝を紹介しているが、個人宅にある滝はこれが初めて。母屋のすぐ裏手に迫る山から落ちる一条の滝で、滝そのものの形状も美しく、なにやら不思議な穴もある。構造上の観点から、また歴史的観点からも後編で取り上げるべき滝であろう。

旧三芳村の平松城址がある山の麓で、池之内の農業、高橋成明さん(75)方の裏山。高橋さんの屋号が「門左衛門(もんざいむ)」であることから、いつのころからこの滝を門滝と呼ぶようになった。高橋さんは子どものころから、この滝音を耳にして育ったのである。

この山に降った雨は、V字谷のような岩肌を流れ、この垂直壁を落ちる。壁は茶筒を縦半分に切ったような形で、滝は一条の流れが2段になって落下する。高さは10bほどだろうか。滝つぼは直径2bほどの円形だ。高橋さんが竹ざおを挿し入れたこともあったが、底に届かないほど深かったという。

滝つぼに落ちた水は、滝の反対側の穴を流れて県道方面へ出る。この穴の間口は幅2・5b、高さ1・5b、奥行きは3bほど。その先はトンネルになっている。この穴の中は人が入れるほどで、高橋さんが子どものころの遊び場だった。「夏は穴から涼しい風が吹いてきて、よくこの穴で涼んだものです」と高橋さん。天井にはコウモリがいて、川底にはカワニナがたくさんいた。ウナギの稚魚もずいぶん見たという。

滝つぼ下流には人工的な横穴がある=同

滝の右手にはケヤキの大木があって、周辺は霊気が漂う。滝そのものの構造が神秘的で、下流の穴も不思議なムードが漂う。長い年月をかけて水が岩を穿ち、この構造をつくったのであれば、天然記念物級の価値があろう。人工的な穴だとしても、これだけの規模は文化財級だろう。

ケヤキの根につかまって、慎重に滝つぼへ降りてみた。穴の中は冷気が支配し、とても夏とは思えない。不思議な穴をのぞくと、はるか遠くに光明が見えた。60年前の子どもには絶好の遊び場だったろうが、現代っ子は怖くて近寄らないだろう。もっとも個人の敷地内である。勝手には入れないのだ。

この滝の水は、高橋さん宅前の県道の下を通って、池之内地区の水田地帯を流れ、山名川となる。山名川は館山市腰越で滝川となり、さらに正木地先で平久里川と合流する。安房で最大級の2級河川・平久里川の源流部にあたる滝なのである。

山に近い地形だから、常時豊富な水量があるわけではない。日照りでは涸れてしまうが、普段はちょろちょろながら流れているという。大雨が降れば、豪快な姿を見せる。「母屋にいても、その音は腹に響くほど。大雨の後はすぐにわかります」と高橋さん。

【写真説明】半筒形の岩穴の中を一条に落ちる門滝=南房総市池之内

【写真説明】滝つぼ下流には人工的な横穴がある=同

10年9月13日 8,627
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