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沢の奥に美しく流れ落ちる七浦の滝

[第13回] 七浦の滝(ななうらのたき、南房総市千倉町大川)

山裾にひっそり落ちる滝

前編で「大川の滝」(2009年11月15日付)を取り上げた際、その滝を「住宅地図は『七浦の滝』としている」と書いた。その住宅地図は大川の滝の東側に、小さな滝マークをつけている。ずいぶん前から、この東側の小さな滝マークが気になっていた。今夏の大雨の後、ついにこの滝マークを訪れる機会を得た。

所在地はいずれも大川。混乱を招くのでここでは、西側の「寺八ツ堰」から落ちるのが大川の滝、東側にあるのを七浦の滝としよう。大川は大字名、七浦は旧村名である。

国道410号から市立七浦小学校方面へ入ると、正面に高塚山登山口の大聖院が出る。この左側に農道があるので、水田地帯を歩く。よく管理された田畑を見て農道を歩くと、やがて傾斜が出て高塚山系の山の根になる。ここから先は道もなく、やぶが広がる。

山の土手のような斜面に取り付き、やぶを分け入る。この先に滝がある保証など何もない。沢の音を頼りにやぶをこぐのである。道はなし。非常に危険なので近寄らないほうがいいだろう。

ぬかるむ斜面を歩き、いったん沢へ出る。ゴロタ石が転がる荒れ沢で、本当はこの沢筋そのものが滝なのではないか、と疑念がわく。が、じっとこらえてこの沢を登っていく。

ゴロタ石はやがて礫(れき)のような小さな石となる。この山独特の地質なのだろう。足で踏むと、ぐしゃりとなるほどの軟弱な部分もある。

10分ほど沢を登っただろうか。沢が左に曲がった先に、目指す滝はあった。地図の小さな滝マークはこれだったのである。

滝の下流にあるゴロタ石が転がる荒れ沢

高さは6bほどか。一条の流れが勢い良く落ちる。下段で壁にいったん当たり、直径2bほどの浅い滝つぼを形成している。特徴的なのは滝つぼの周囲だろう。円筒状にえぐれ、かつてはこの滝がもっと手前にあったであろうことがはっきりとわかる。滝は長い歳月をかけてこの礫まじりの岩を浸食し、滝そのものを後退させていった。砕かれた岩はそのまま下流に転がり、この全体に弱い地盤の沢をつくり出したのだ。水路の上流部分で、川の名は特にないようだ。

実はこの滝を探し出す前に、別の沢筋をさまよった。その沢は涸れ沢で、途方に暮れた。ようやく探し出したこの滝を見たとき、岩肌から後光がさすような思いだった。

こうしたやぶの中にある滝を知る地元の人も少なくなった。荒れた山に足を踏み入れるたび、人の営みが遠くなっていることを実感するのである。

【写真説明】沢の奥に美しく流れ落ちる七浦の滝=南房総市千倉町大川

【写真説明】滝の下流にあるゴロタ石が転がる荒れ沢=同

10年9月18日 8,048
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