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上流から見た市郷の滝

[第18回] 市郷の滝(いちごうのたき 館山市西長田)

房州のナイアガラ滝

山仲間から館山市神余の山中に秘滝があるらしい、という情報が寄せられた。イチゴウという地名で、滝の近くに石仏がある。情報はそれだけだ。神余は広い。手がかりはないに等しい。まずは神余の居住者にイチゴウの地名を聞いた。西長田との大字界に近い谷間らしい。

地図で一本の林道を確認し、巴川源流域を歩く。雨合羽を着てさまよい歩くが、沢筋の小滝があるだけだった。山を降りて神余の民家で尋ねる。2軒目の農家で確信を得た。古老いわく「うちの田に落ちる滝があった。地名はイチゴウ。でも(条件が悪く)30年耕作していないので、滝まで行く道がもうない」とのことだった。肩を落とす滝見隊員。でも古老はこう付け加えた。「館山市のごみ処理場からなら、降りる道があるかもしれない」。

館山市衛生センターに取材を申し込み、後日、一般廃棄物最終処分場の鉄扉を開けてもらった。一般の人は立ち入りできない場所にある滝である。

最終処分場を下っていくと、右に小さな流れがあった。沢へ降りる場所の草が刈ってある。職員の方の気配りだろう。なんともありがたい。

降りた沢の上流側に3段の小さな流れ。これが最初の小滝である。そのまま沢を下っていくと、落差3bほどの滝がある。ここは降りられないので、左側を高巻きして山に。立木につかまりながら滝下へ。これが目指す滝ではないか、という思いもわくが、さらに下流へ行く。ここで驚くべき光景が出た。

川はこの場所で大きくえぐられ、ナイヤガラの滝ばりの垂直落下を見せる。直径10bほどの大穴が開いているのだ。もちろん米国の滝とは規模も水量も雲泥の差だが、この山中でこうした滝の姿があることに驚いたのである。これぞイチゴウの滝だ。

小さなナイアガラ、市郷の滝

房総半島特有の泥岩地帯。柔らかい地質なので浸食が早いのだろう。川底はここでひさしのように張り出し、水を大きな穴へ落としている。ここはなんとしてでも滝下に出なければなるまい。

再び左岸を高巻きにして、危うい足元に注意しながら、滝下へ出た。見上げるばかりの垂直壁。これが巨大な茶筒のように円筒の壁になっている。円筒と同じサイズの滝つぼがあって、かなり深そうだ。

滝は円筒の一部分が間口部となり、垂直に落ちる。高さ6b、幅は3bほどか。滝の正面右側に岩を掘り込んで石仏が埋め込んである。右手の剣の形からして不動明王だろう。滝つぼが深くてそばまで寄れないのが、残念である。

地質は長尾川上流の「どうめの滝」に似ている。同じような地層なのだろう。比較的柔らかい岩が、長い歳月をかけて浸食されていったのだ。

何度も検索してようやく出合った滝。本連載でもっとも確認に手間取った滝である。のちに地番を確認すると、西長田の小字が「市郷」だった。ここは小字表記で市郷の滝だろう。

館山市役所職員に感謝するとともに、一般の人は立ち寄れないことを重ねて強調しておきたい。

【写真説明】上流から見た市郷の滝=館山市西長田

【写真説明】小さなナイアガラ、市郷の滝=同

10年10月23日 8,623
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