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絹糸のように美しく一条に落ちる堂の滝

[第20回] 堂の滝★ルビ どう たき★(鴨川市金束)

一条の絹糸で落ちる美滝

小紙連載「久留里から布良まで 房総分水嶺 半島の背骨を歩く」で、機会があれば取り上げたい滝があると書いた(2010年5月2日付)。その滝が、この堂の滝である。

正式な川となって流れる滝ではなく、降雨後に発生する滝だ。したがって国土地理院の滝の基準には入らないが、房州寂名瀑としては、取り上げる価値がある。それほど美しい滝なのだ。

水源は富津市山中と鴨川市金束の境となる郡界尾根である。近くには三角点峰の八丁山(標高308・5b、点名は「山中」)がある。この尾根に降った雨が、この地で滝となって垂直落下する。岩肌を伝わるのではなく、糸のように落ちていくのだ。

長狭街道の富津・鴨川市境。鋸南町方面から来ると、左手に民家を見て、道が下っていく。この左手民家奥に小さな堂がある。トタン張りの間口1間半ほどの堂だが、中には火焔を背負った不動明王が鎮座する。入り口の引き戸が施錠されているが、ここ何年かは開けられていないだろう。金具はさび付き、堂宇全体が寂れた印象である。

堂の右手の草を上がる。うっそうと茂る竹の先に、目指す滝はある。一条の絹糸が、上の岩から落下する。水量は少ないが、美的な滝、見栄えのする滝である。落差は15bほどか。岩を伝わらずに落ちた水は、中段で小さな滝つぼをつくる。人が座れるような岩で、ここで滝に打たれて修行すれば、悟りが開けるかもしれない。近くの堂の存在といい、そんな威厳のある場所なのだ。

火焔を背負った不動明王

近くの民家で取材した。84歳の女性である。滝の名は特にないが、昔から堂のそばにある滝という意味で、堂の滝と呼んでいたという。堂そのものの名もないというから、やはり堂の滝だろう。女性は「昔は堂の掃除に行ったものですが、いまは誰も近寄りません」と寂しそうに話す。戦後すぐに上流の山を削ったことから、滝水に小石が交じるようになり、やがて大きな崩落があった。この崩落で堂も壊れてしまい、現在の建物にしたという。

女性が子どものころは、壊れる前の堂に籠(こも)って、勉強する機会もあった。その堂も寂れて、滝の存在も忘れられてしまった。いまは近寄る人もないが、この美滝はもっと広く知られてもいいだろう。

滝めぐりは、歴史との出会いでもある。この滝の水は小さな水路となって、長狭街道へと流れる。小さな流れはやがて加茂川となって、太平洋へ注ぐ。滝の世界は奥が深い。

【写真説明】絹糸のように美しく一条に落ちる堂の滝=鴨川市金束

【写真説明】火焔を背負った不動明王=同鴨川市金束

10年11月6日 7,251
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