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美しく広がって落ちる泉川滝

[第32回] 泉川滝(ぜんぜんたき 鴨川市粟斗・和泉)

房州では別格の巨大面滝

一昨年12月、本連載前編の滝の写真を集め、南房総市富浦町で写真展を開いた際、来場者が地図まで書いてていねいに教えてくれたのがこの滝である。鴨川市粟斗地区にある一軒宿の温泉「粟斗温泉」に程近い。

房州温名湯の下を流れる川が上待崎川で、滝はその中流域にある。川は熊野神社の下で大きく蛇行している。この蛇行場所に房州では珍しい大きな面滝がある。

面滝とは高さよりも幅のある、横長の滝を指す。水量の少ない房州の河川では懸谷型の縦長の滝が多く、こうやって川幅いっぱいに広がって落ちる滝は珍しいのだ。

幅は25bほどあるだろうか。高さは5bほどだが、雄大な横への広がりは、ここが房州であることを忘れさせる。房総半島南部の滝としては別格の部類だろう。

市道わきにクルマをとめ、人が歩けるだけの幅のある道を歩く。すぐにU字溝があって、右手に流れていく。これは農業用水で、豊富な水量を上手に利用している。U字溝内は水でいっぱいだった。

用水をまたぐように木の橋があって、これを渡ると正面に大ケヤキが鎮座する。かなりの樹齢だろう。大きな根が四方にめぐらされ、その一角に瓦屋根の小さな祠がある。内部には石の不動明王。地元の信仰が篤いのだろう。滝、農業用水、大ケヤキ、不動明王と、この場所が地域にとって大切な場であることがひしひしと伝わってくる。

滝上から下流を眺める

撮影のために滝下に出る。雨中なので水量が豊富である。流れの強い岩盤の上を歩くわけだが、流れに足をとられないように、慎重の上にも慎重に歩く。

対岸に渡って、三脚を据える。正面に面滝を見て、シャッターを切る。滝のサイズが分かり難いので、川崎勝丸さんに滝上に立ってもらう。人と比較すると、この滝の巨大さがよくわかる。

撮影を終えて、滝上に出てみる。上部も一枚岩の岩盤で、ここを歩いて流れの上に出る。豪快に飛沫を上げながら、白い瀑布が落ち込んでいく。なんとも雄大で、心がなごむのである。

滝は流れが多いほど、感動を呼ぶ。雨の中、合羽を着てまで訪れた甲斐があったというものだ。

泉川とは小字ではなく、この滝周辺の固有名詞。資料によっては「ぜんせん」「せんぜん」と微妙に呼び名も異なるが、地元の正確な発音は「ぜんぜん」である。

【写真説明】美しく広がって落ちる泉川滝=鴨川市粟斗

【写真説明】滝上から下流を眺める=同

11年1月29日 10,456
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