企画・エッセイ » 記事詳細
複雑かつ流麗に落ちるヒッコシの滝

[第35回] ヒッコシの滝(鴨川市東町)

複雑で流麗な4条の滝

承前。イゴベエ滝の左岸ステップを慎重に越え、セーナ沢の上流を目指す。

沢は大蛇のように右に左に曲がる。我ら滝見隊は川底を慎重に歩いていく。スパイク付き長靴を履いているが、滑る場所もある。危険である。慎重にも慎重の上に歩を進める。

川が大きく左に曲がった先の右手(左岸)に涸れ滝が出る。高さは10bほどか。ちょろちょろと水が落ちるが、滝と呼べるほどの水量はない。左岸の杉林の絞り水だろう。雨上がりならば、美しい滝に見えるに違いない。

涸れ滝から、さらに上流へ。この沢筋は時折、両岸に獣道が出る。林業従事者や猟師など、特別な人しか歩かないから、踏み跡はイノシシやシカも交じるのだろう。滝見隊は時に川底からこの獣道に上がり、川を遡行していく。

イゴベエ滝から15分ほど遡ったところで、正面に美しい4条の滝が出現した。これがヒッコシの滝である。イゴベエ滝とはまた違う趣で、思わず息をのむ。滝名の由来はこれも不詳である。

上から見たヒッコシの滝

滝は右岸寄りに形成されている。水流は滝上で右岸に寄って岩壁にぶつかる。滝を正面に見て左側から中央に流れる。これとは別に右側からは3条の流れが左に寄る。両側からの流れは中央でクロスし、4条の滝はひとつになって落下する。中ほどにふたつの穴があって、水はここではねて、一番下の大きな滝つぼへ落ちる。全体の高さは6bほどである。

複雑かつ流麗な滝で、しばし見とれる。直径8bほどの滝つぼはエメラルドの色をたたえ、清涼そのものである。上流に人家がないから、ごみはなく、美しい流れが確保されている。房州寂名瀑はどれも美しいが、これほど汚れていない滝はまずないだろう。水は清澄山系から流れるが、文字通り「清く澄んで」いるのだ。

この滝の上流にさらに滝があるというが、巨大な岩壁が行く手を阻む。軟弱な記者(忍足)を跳ね返すように、岩壁はそこに立ちはだかる。

高橋力太郎さんが、滝の右手の岩をするすると登っていく。ザイルもなにもない。岩のくぼみ、木の根を使って四肢を動かす。あっという間に滝上に出て、我らを待つ。

先達に従い、岩を登る。6bはあるだろう。立木を確保し、三点支持で慎重に上がる。岩の上は泥で滑る。危険極まりないので、その点、十分ご理解を。

滝上に出て、下を眺める。エメラルド色の滝つぼが広がる。聞こえるのは滝音だけ。水は清く澄み、音を立てて流れ行く。まったく、素敵な渓谷と素敵な滝があったものだ。

【写真説明】複雑かつ流麗に落ちるヒッコシの滝=鴨川市東町

【写真説明】上から見たヒッコシの滝=同

11年2月19日 7,778
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved