
[第36回] ネコの滝(鴨川市東町)
セーナ沢上流の巨大滝
承前。セーナ沢は最上流部に、もっとも大きな滝を含有する。歌謡ショーで大物歌手が最後に登場するように、袋倉川セーナ沢の連瀑は、最後に大物滝が登場するのである。
ヒッコシの滝から、さらに遡行していく。水量は減らず、川底は岩盤である。滑りやすい場所もあるので、4人の滝見隊は慎重に進む。
川の両岸には杉が植えられている。30年生ほどの木もあるので、昭和40年代ごろからこの地に植林されたのだろう。適度に間引きされていて、人の手も入っている。周囲の山林は旧天津小湊地区の財産区なので、良く管理されているのだ。
上流に行くに従い、ゴロタ石も増える。野趣に富んだ渓谷の雰囲気が漂う。巨大な岩をトラバースしながら、上流を目指す。
川が二股になった場所に出合う。右股が太く、左股はやや細いが、水量は同じくらいだ。最後の大物滝は、この左股にあった。
二股を左に曲がった右側に巨大な黒い岩壁が出る。これはわずかに水流があるが、涸れ滝である。目指す滝は、さらにその左手にある。黒い岩肌をなめるように白く流れ落ちる。黒い肌にまとわり付く、絹糸のようである。高さは10bほどだろうか。音もなく静かになめて落ちる様が、ネコのようである。滝名の由来は、これも不詳だが、そう考えるとネコのようにも思える。

滝つぼは直径10bほどあり、茶筒を縦に半分に割ったように岩壁がそそり立つ。長い年月をかけて、川がこの岩を浸食していったに違いない。滝つぼは満々と水をたたえ、やはりエメラルドのような美しい色をしている。人の気配がないから、いっそう神秘的である。
美しい滝だが、杉の倒木が数本立っていて、これが玉に瑕(きず)であるが、これも自然のなせる業だ。我慢しよう。
高橋力太郎さんの提案で、滝を迂回して右股へ遡る。水が涸れるまで登ったが、この先は何もなかった。
さらにネコの滝へ戻って、巻き道をして滝上に出る。ヒッコシの滝よりもずっと危険性が高い。何もない急斜面を四つんばいで登って、滝上に出た。上から見る滝もまた美しく、しばしたたずむ。さらに上流へ遡行したが、最後は涸れ沢だった。
イゴベエ滝からヒッコシの滝まで20分。ヒッコシの滝からネコの滝まで40分。素晴らしい瀑布帯だが、非常に危険である。その点を強調して、セーナ沢の滝の紹介を終えよう。
【写真説明】黒い岩肌に白く落ちるネコの滝=鴨川市東町
【写真説明】上から見たネコの滝=同

