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塩ビ管で水が引かれる祇園滝

[第44回] 祇園滝 (ぎおんたき) 南房総市川谷

犬切の名伝える涸れ滝

暇乞いの滝の取材で、近くに別の滝があることを、地元・川谷の人が教えてくれた。「滝のことを書いている人に、ぜひこの滝も調べてほしい。周囲はみんな高齢化で、このままでは歴史ある場所が忘れられてしまう」。その名を祇園滝という。滝の周辺には歴史ある地名があった。涸れ滝なれど、歴史は十分。房州寂名瀑にふさわしい滝である。

旧丸山町川谷の小字が犬切。珍しい地名であるが、地元ではイヌギリと発音する。その犬切に関連する滝なのである。滝の下に住む農業、小沢澄夫さん(81)が詳しく教えてくれた。

犬とはずばり、南総里見八犬伝の妖犬・八房のこと。敵将の首を取って来た者に、褒美として娘・伏姫をやろう。その言を聞いて首を取って来た犬である。物語では伏姫と八房は、富山麓の洞窟に暮らす。やがて八房は里見家臣によって銃殺されるのである。

が、この犬切では、犬は太刀で切られたことになる。元々フィクションなのであるから、話は膨らんだのであろう。

滝は、安房中央ダムの東側高台にある小沢さん宅のさらに上にある。個人の敷地を入っていかなければならない場所だ。未舗装の道路をしばらく歩くと、5分ほどで右手に岩肌が出る。塩ビ管が何本も出ていて、これが小沢さん方に引かれている。「今は上水道が引かれたので、この水は田で使っている」と小沢さん。

太刀洗い井戸を指す小沢さん

滝は落差8bほどで、普段は涸れている。雨が連続すると、この岩肌を流れ落ちて、ヒューム管入り口であふれるという。取材では2回足を運んだが、残念ながら流れのある写真は撮れなかった。

が、寂名瀑の価値観は水のあるなしではない。この滝の上には「太刀洗い井戸」があるのだ。犬を切った太刀を洗ったという湧き水である。

小沢さんに案内されて滝の上のやぶを巻いて登った。Y字状に流れが合流する場所にそれらしい湧水点があるが「いまは土砂で埋まってしまった」と小沢さん。この太刀洗い井戸の上が、祇園囃子を演じた舞台があった平台で、いまは杉が植えられてうっそうとしている。祇園囃子舞台の下だから、祇園滝だったのである。

小沢さんはこの地で何代も続く農家。古いことを知る小沢さんも、さすがに祇園囃子のことは知らないという。それほど昔の話なのだろう。

ダムの上流側に「堂台橋」があるが、この橋を渡った左手が、「犬鳴かせ」という地名だという。その先のやぶの中に「犬放りの滝」(いぬほおりと発音する)がある。

犬を切って、その太刀を洗い、犬を鳴かせながら、葬ったのであろう。その地が犬切である。滝の水量よりも、この地に伝わる話がおもしろくなってきた。

滝ファンには恐縮するような紹介方法であった。

【写真説明】塩ビ管で水が引かれる祇園滝=南房総市川谷

【写真説明】太刀洗い井戸を指す小沢さん=同

11年4月23日 26,236
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