
[第28回] 津森山へ
支尾根を四つんばいで直登
八丁山の頂は、三角形になっていて、眺めはないものの、えもいわれぬ落ち着きがある。石宮などはないが、金束側からも登る道があるから、何らかの信仰の場所ではなかったろうか。
ここで小休止して、4人で記念撮影する。このやぶ山へは、めったに来られるものではない。
八丁山からの下りは、雪で滑るのでなおさら慎重だ。支尾根沿いに南東方面に下っていく。やがて夏みかんが植えられた果樹園のそばに出て、道はコンクリートの下りになる。植えられた杉の間から、これから行く津森山のピークが見える。うっすらと冠雪していて、まるで信州の眺めである。
コンクリ道を下った先に数軒の民家が点在する。榎畑の集落だ。右にトタン張りのお堂がある。施錠されたガラス窓越しに見ると、火焔を背負った不動明王が鎮座している。大きなイチョウの木があるので、古いお堂なのだろう。不動明王があるということは、近くに滝がありそうだ。お堂の右手の坂を上ると、急な崖面に小さな流れがあった。この程度の雪では滝にならないのだろうが、大雨の後はそれなりの姿だろう。竹が茂って見えにくいが、機会があれば、房州寂名瀑の取材で訪れたい場所である。
滝と別れて、先へ進む。大型車も走る道に出る。これが長狭街道である。榎畑付近は鋸南町と鴨川市の境で、県道の峠になっている。トラックがアクセルを吹かし気味にこの峠を越えていく。
川崎さんが言う。
「横根方面へトラバースして、津森へ登りますか。それともこのまま直登しますか」
答えは後者である。津森山のピークから張り出し気味に北に出ている支尾根を直登しようというルートを選択した。
水田の縁に続く赤道を歩く。比較的斜度のある道である。そのままやぶに突っ込む。
川崎さんがザックからナタ鎌を出して、小枝を切りながらの進軍だ。ナタを振ると、積もった雪が落ちる。まさに露払いである。

川崎さんの後を3人が進む。道なき道を直登するのだ。足元は滑る。立木につかまり、ひたすら上を目指す。四つんばいでの登山である。
奮戦すること20分。ようやく支尾根に出る。ここからは尾根道になるので、難所は過ぎたということだ。後ろを振り返ると八丁山が見える。三角形の美しい姿である。
支尾根に出て15分。ようやく津森山の広い頂になる。西尾根は「富士山展望台」と名付けられ、鋸南町周辺の山々が良く見える。そのまま尾根を行くと、木花開耶姫命、御嶽大神、金比羅宮の3つの石宮が並ぶピークになる。これが津森山の中心部である。
津森山は鋸南町・富津市・鴨川市の三境で、郡界尾根の八丁山とは、長狭街道を隔てて対峙する位置になる。
分水嶺行6日目で、ようやく郡界尾根から離れ、ルートはいよいよ南の嶺岡山系を目指すことになった。
(つづく)
【写真説明】長狭街道の富津市・鴨川市境
【写真説明】津森山の広い頂から郡界尾根を眺める

