企画・エッセイ » 記事詳細
標識のある二ツ山登り口

[第31回]二ツ山へ

夕暮れに包まれ6日目了

冬の午後3時というのは、一般的に下山支度を整え、山とお別れする時刻である。朝9時に入山しているので、すでに6時間は歩いている。市道へ出たのだから、きょうはもう終わりかと思いきや、川崎さんはさらに先を目指すという。驚天動地の提案だが、3日目の金山ダムでの「遭難回避」のことを思えば、不思議でもない。まな板の上のコイの心境である。

白石峠を下って、鴨川市平塚へ。下り坂の途中で右に入るコンクリート道があるので、ここを上がる。杉林を過ぎると、道が開け、正面に鉄塔のあるピークが見える。あれが二ツ山である。まだ遥か先に見える。午後3時を過ぎて、少し不安がよぎるが、「えぇい、ままよ」である。

二ツ山までは基本的に舗装道なので、迷うことはない。

西沢川を越え、急なコンクリート道を上る。農家の庭先に見知った顔があった。取材で顔見知りの元警察官である。定年前に退職したとは聞いていたが、この山里で出会うとは思わなかった。

「これから二ツ山へ登ります」というと、驚く風でもなかった。午後3時は過ぎているのだが……。

鴨川市の大田代配水池を右に見てさらに上ると、分岐点に。ここを右に上れば、嶺岡中央林道に出るはずだ。

最後の休憩を入れ、気合も入れる。坂を上がると、嶺岡中央林道1号線との丁字路になる。左が二ツ山、右は嶺岡苑(安田公園)の標識である。

二ツ山ピークからの雄大な眺め

左へ進路を取り、上りをひたすら歩く。やがて立派な看板が出て、これを目印に左へ入り、山へ取り付く。林道から10分ほどで、二ツ山のピークになる。

この山も2005年4月に、房州低名山の取材で登っているが、津森山以上に眺望のない、ひどいやぶ山だった。ピークの名主遺功碑以外には、見るべきものもなく、かつては県内最高峰ともいわれた山も、見る影もなかった。

それがこの変貌ぶりはどうだ。広い頂の西側の樹木が伐採され、ぐっと眺望が開けている。

左から伊豆大島、丹生の電波塔、富山、伊予ヶ岳、津辺野山、鋸山、嵯峨山、津森山と、房州低名山がいくつも並ぶ。手前には露岩のガンコ山も見える。

上空は曇り空だが、雲の切れ間から陽光が差し込み、天使の梯子≠見せている。

時計は午後4時15分。やがて西日が差し込み、山々は幻想的な眺めとなった。

川崎さんがこの時刻に、二ツ山をこの日のゴールと設定した理由が分かった。記者(忍足)にこの山の変貌ぶりと、この素晴らしい景色を見せてくれる配慮なのだ。

夕暮れに包まれながら、師匠の心遣いが心身に沁みた。

そのまま嶺岡中央林道を10分ほど歩き、あらかじめ駐車してあった車に戻る。巨大なS字ルートの分水嶺行6日目が終わった。郡界尾根ともお別れ、いよいよ嶺岡山系に足を踏み入れたことになる。

(つづく)

【写真説明】標識のある二ツ山登り口

【写真説明】二ツ山ピークからの雄大な眺め

10年5月6日 8,454
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved