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地元で天王様と呼ばれる社殿

[第39回] 加茂へ

館山・丸山境で8日目完

三峰山からは、国道128号に向かって徐々に高度を下げていく道になる。時計は午後3時を回っているが、危険なことはあるまい。木々の切れ間から、時折集落が見える。農家の庭先で犬がほえる。人間は気づかないのだろうが、犬にはこの尾根の人の気配がわかるのだ。盛んにほえて、周囲に異常を知らせている。

木々の切れ間に舗装道が見え隠れする。これが県道の遠藤トンネルだ。丸山の白い風車も見える。三芳地区・御庄と丸山地区・前田を結ぶトンネルである。トンネルからしばらく行くと、トタン張りの小さな建物が出る。地元で天王様と呼ばれる社殿だが、いまは参拝する人もいないのだろう。周囲はスダジイに囲まれ、ひっそりとしている。

落ち葉を踏みしめながら歩く。右手の木々の切れ間からは、西日が差し込む。日は長くなったが、冬である。午後4時近くなればさすがに夕刻の気配が漂う。

ルートの最後に大きめの山が待つ。マテバシイの生えた斜面をこらえて登る。ここを下って、ソテツ畑へ出る。農地があると、ほっとする。少なくとも山中よりも人の香りがするのだ。夕刻は迫るが、寂しくはない。

杉林を過ぎて、竹やぶが連続する。平地には幅1・8bほどの道があって、シルバーの杭が入っている。ここにも「国調丸山」の刻印。実は遠藤トンネルから南側の尾根は、館山市竹原と丸山地区の境である。国調杭は丸山町時代に打たれたもので、現在は市境になっている。

賀茂神社にある「御神水」

尾根の上から左手に堰を見る。出保堰である。この先に1軒の民家がある。この地が絶景の地で、地主に断って小休止する。正面に白渚浅間山が座り、右手に紺碧の太平洋が広がる。嶺岡愛宕山から御殿山までの雄大な眺めも加わる。ここで夕刻に酒を飲んだら、さぞ爽快なことだろう。家主がうらやましい。

コンクリート坂を下ると、竹原に抜ける道に出た。竹原峠である。国道128号が開削される前は、この峠を神輿が通り、館山の鶴谷八幡宮の祭礼に出て行ったという。

坂を下ると、加茂の集落。賀茂神社に向かって歩く。鳥居をくぐると、右手に「御神水」の石碑があって、周囲がガードされている。これが分水嶺から湧き出る清水なのだろう。神社にいわれのある水に違いない。

水を分ける嶺の旅を続けて8日目。この清水は丸山川となって太平洋へ注ぐ。遥かな旅は、館山・丸山境まで来たのだ。

(つづく)

【写真説明】地元で天王様と呼ばれる社殿

【写真説明】賀茂神社にある「御神水」

10年5月15日 8,464
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