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眼下に広がる太平洋と根本の集落

[第48回]布良へ

旅の最後にビッグな贈り物

ルートが修正され、行き先が定まった。館山・南房総の市境の尾根を進めば、その先は布良である。

川崎勝丸さんは言う。

「洲崎をゴールに設定してもよかったんですが、景色がイマイチ。布良ゴールならば、太平洋の眺めが楽しめます」

山のご馳走は、景色というのが川崎さんのポリシー。ベテランらしいセッティングである。

尾根を歩くと、木々のすき間から紺碧の太平洋が見えてくる。眼下には根本港が見え隠れする。最終ゴールは間もなくである。

潮騒が聞こえてくる。10日間の尾根歩きで初めて聞く音だ。潮の香が鼻腔をくすぐる。潮風がほおに心地よい。洲崎ゴールよりもよほどいい。さすがは川崎さんである。

やぶこぎを続けていくと、小さな峠が出る。根本の集落から小塚大師へ通った道ではないか、という。クルマが普及する以前は、この峠を越えて、人々が行き来したのだろう。現在はやぶに埋もれてしまっているが、いつかはこうした歴史の道を歩きたいものだ。

尾根を進むと、右手に平砂浦のゴルフ場が見えてくる。やがて正面に大きな山が出る。これが館山野鳥の森の主峰の天神山である。

ルートにはカンゾウやマサキなどの暖地性の植物が自生している。海が近いこともあって、暖かなのだろう。ゴールが近づき、胸が高鳴る。神輿が神社に戻るような気持ちである。

慈悲深い岩崎巴人氏の壁画

根本漁港の真上を通過する。左手下には根本キャンプ場も見える。道は低い笹やぶになる。ここが最後の難所となった。

先導の山口一嘉さんが難儀しながら岩の尾根を登る。とても越えられそうもない。左の腹を巻くようにしてトラバース。最後の難所を抜け出る。

この先に小さな石宮があり、「明治十二年」「浅間様」「根本村」などの文字が読める。地図では標高140bほどのピークである。麓の人から浅間社として信仰があったのだろう。

浅間社ピークから5分で、天田山展望台へ出る。第三管区海上保安部白浜送信所の東側のピークである。ここからの景色が素晴らしい。眼下に紺碧の太平洋が広がり、根本地区の家並みが見渡せる。10日間の長旅の最後が、この贈り物である。川崎さんに感謝したい。

景色のほかにも、ビッグな贈り物があった。送信所近くのトンネル内に画僧・岩崎巴人氏の壁画が数点あるのだ。釈迦が虎の餌食になるシーンは、慈悲深く感銘がある。死去の報を聞き、その思いはさらに募る。

旅の最後の、最後らしい景色である。

(つづく)

【写真説明】眼下に広がる太平洋と根本の集落

【写真説明】慈悲深い岩崎巴人氏の壁画

10年5月26日 23,211
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