企画・エッセイ » 記事詳細
難所をロープで降りていく

[第8回]お茶立場へ

難所越えて浮かぶ笑み

標識でにぎやかな分岐点で、小休止。天気予報は晴れだったが、ここで小雨が降り出す。雨具を出すほどの降りではないが、広葉樹に落ちる雨音は大きい。一同「予報は晴れだったのにナ」。

ルートは何度か上っては下る。市境尾根なのでアップダウンを繰り返すが、ずっとコンクリート杭が埋まっていて、心強い道である。

ショパンのピアノのような雨音を聞きながら、ノー雨具で歩く。そのうち止むだろう。何しろ予報は晴れなのだ。細い尾根道を歩くと、樹間から時折、郡界尾根が見える。おお、きょうはあそこまで歩くのだ。心を鼓舞し、南へ歩く。

大きな岩があったり、モミの巨樹に出合ったり、珍しいアカマツが出たりする、植生豊かでバラエティーに富んだ道なので、歩いていて非常に楽しい。樹木医の齊藤陽子さんも同行していて、植物の解説をしてくれるから、なおさら楽しい。

お茶立場のやかん標識

本日最大の難所、といわれるロープの下りが出る。急な崖だが、立木にトラロープがくくりつけてあり、安全に降りられる。ひとりずつロープにつかまり、慎重に下っていく。楽しい山なのだ。けがをしては何にもならない。慎重の上にも慎重に、三点支持を守って下る。

北側の樹間からは時折、巨大な鹿野山が見え隠れする。白鳥峰、熊野峰、春日峰と並ぶが、白鳥神社のある白鳥峰が良く目立っている。前回はあの山がスタートだったと思うと、かなりの距離を歩いたと実感する。

富津市の宇藤木への分岐点で小休止。地元観光協会の看板がいくつかあって、迷うこともない。川崎さんが「荷物を置いて、お茶立場へ行きましょう」と誘う。

杉の植えられた斜面を空身で降りていく。沢筋の小道であるが、5分ほど下った場所に、アルミ製のやかんをぶら下げた杉がある。やかんには「お茶立場」の文字。この尾根を通った源頼朝一行は、この沢の水で茶を沸かしたという。お茶立場にやかん。ストレートな標識に、笑みが浮かぶ。 (つづく)

【写真説明】難所をロープで降りていく

【写真説明】お茶立場のやかん標識

10年11月18日 21,349
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved