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湾曲した美しい石段カーブ

忘却の石階段ルート

いくつもある鋸山登山ルートで、もっとも古いにもかかわらず、人々の記憶から忘れられているルートがある。金谷の観光マップにも記載がなく、金谷側でもこのルートを知る人も少ないのだろう。忘却の登山ルートである。

では、道が荒れていて、登れないのかというと、否である。石の階段が続く快適ルートで、なぜこの道がマップに記載されていないのか、不思議でならない。

スタートはロープウエーの山麓駅近く。金谷神社から山麓駅に入り、左に駅と駐車場を見て直進する。勾配のあるアスファルト道路を「ロープウエー第2駐車場」の看板に沿って歩く。

やがて第2駐車場の分岐が出るが、ここを曲がらずに直進する。ロープウエーから15分ほどで、鋸山地殻変動観測所の建物が左に出て、マテバシイの林の中に、右へ上がる階段が出る。これがこのルートの登山口である。

尾根へ出る最後の上り

苔むした石の階段が続く。最初はマテバシイの純林で、階段は九十九折れになっていて、何度か曲がって勾配を稼いでいく。石はこの山で産出された金谷石。地産地消の典型だ。高度な石職人の手でつくられた道だろう。

階段は一部がすり減っていたり、後年、コンクリートで補修されたりしているが、しっかりしたつくりで、壊れてはいない。崖側にはしっかりした石積みがあり、当時の土木技術の水準がうかがわれる。カーブには湾曲した石積みがしてある。こうなればもう芸術品だ。

その石全体に苔が生えていて、ルート全体が蒼(あお)い感じである。名もなき、忘却のルートでは、先人の石職人に申し訳ない。「蒼の階段コース」でどうだろう。

九十九折れを何度か曲がって標高が高まる。10分ほど階段と格闘すると、小さな切割になる。ここに境界杭と何らかの石柱がある。文字が刻まれているが、風化して読めない。このルートを開いた当時の記念碑だろうか。

ルートの途中に腐りかけた、倒れた木柱がある。「南房総 鋸山 ハイキングコース 京浜急行」とある。かなり古いものだ。観月台コース開設の前に、ここを京浜急行がコース指定したのだろう。

木柱から10分ほどで、石切り場跡になる。富津側にはかなりの数の石切り場跡があるが、ここは小規模で、一番西に位置する。深く切れ込んだ岩が美しいが、この石切り場跡も忘れられた存在だろう。

石切り場跡の上は、もう鋸山の尾根である。鋸の歯の上ということだ。一部には安全のためのトラロープがある。尾根道は踏み跡もあり、ここを歩く人もまだいるのだ。

尾根には樹木が茂っていて、左右の眺めがあまり望めないが、時折、鋸南側と富津側の眺めが確認できる。石切り場跡から10分で、ブロックに囲まれた石の仏が出る。ブロックは近年の施工だろうが、石仏は古そうだ。

尾根は地籍調査のプラスチック杭があって、富津・鋸南の市町境であることが分かる。やがて道は下り、ロープウエーの山頂駅直下に出る。登山口から1時間と少し。階段は多いが、快適な登山ルートである。

※山中にはマムシやスズメバチなど、生命にかかわる生物がいます。十分気をつけてください。

【写真説明】湾曲した美しい石段カーブ

【写真説明】尾根へ出る最後の上り

12年8月25日 10,363
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