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開山祖の雲嶺禅師の石像(存林寺所蔵)

麓の古刹に残る名工の作

武田石翁(1779―1858)は、安房の各地の神社仏閣にさまざまな作品を残す。石彫なので保存状態も良く、没後150年を経たいまも、立派に鑑賞出来る作品が多い。

石翁も眠る小滝家(屋号・新右ヱ門)の菩提寺である、曹洞宗の名刹、亀福山存林寺(山本良寛住職)を訪ねた。長男の文龍師(34)が案内してくれた。

冒頭断っておくが、同寺は原則として寺宝は非公開。今回は特別に取材許可をいただいた。

石翁の作品は存林寺に5つある。うち1つは小滝家管理、残りは寺の所蔵である。

最も貴重なのは、開山堂に安置されている雲嶺禅師の像だろう。同寺は元々、鋸山西麓にあったが、慶長15年(1610)、現在地に移る。長安寺13世雲嶺本龍禅師を迎えて、寛永元年(1624)に開山している。この開山祖の石仏を石翁が彫ったのである。禅師は慶安4年(1651)に遷化している。

法堂内開山堂に安置されている像を拝見した。柔和な表情で如意を持ち、椅子に座る。石像だが、全体に彩色されていて、150年経ているとは思えない。石翁の傑作であろう。一説には石翁71歳の作とされ、円熟味を増したころの作品であるという。

檀家である石翁が寺に乞われて彫ったか、あるいは奉納したか。開山祖は静かに堂の中でたたずむ。

このほか、石造彩色の韋駄天像もある。「火盗潜消」(火伏せ)の文字とともに、祀(まつ)られている。よく走る神、盗難除けの神として知られ、寺院では厨房などに祀られる。黒光りした立派な韋駄天像である。

小品では、蝦蟇(がま)と、兎(うさぎ)の石造物がある。

これら石造物は屋内管理だと風化は少ないが、屋外設置のそれは意外と傷みが激しい。

墓地の一角には、小滝家の墓がある。その中に極めて目立つ墓石が、石翁の墓である。御影石とは違い、石翁の墓だけ赤っぽい色をしている。嶺岡産の石だという。長方体の上に半跏座のような立体像が浮き出る。長方体正面に法名「白堂石翁信士」が彫られ、安政5年8月4日に没したことなどが記されている。安房の名工は、自らの墓も彫っているのである。

こうした寺宝を抱える、山本文龍副住職に聞いた。「歴史を感じているし、こうした歴史を大切にしなければならない」とするが、最近の文化財盗難にも頭を悩ませているという。「本当は、檀家以外の多くの人に見てもらいたいが、マナーの問題もあって、最近は非公開に傾いている」という。

【写真説明】開山祖の雲嶺禅師の石像(存林寺所蔵)

【写真説明】石造彩色の韋駄天像(同)

【写真説明】石翁の墓と文龍師=同墓地内

【写真説明】蝦蟇(同)

【写真説明】兎(同)

石造彩色の韋駄天像 石翁の墓と文龍師 蝦蟇 兎
13年2月23日 8,710
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