企画・エッセイ » 記事詳細
元名花街道のメンバー=鋸南

27 「元名花街道」と篠原茂幸さん

鋸山の南側、元名集落に「農」に活路を求め、活動する団体がある。それが「元名花街道」(岡村隆会長)だ。メンバーは10人。JR保田駅、富津館山道路保田ICと、鋸山を結ぶルートで、美しい花の環境づくりを進めている。

その中心的存在が「地の利を生かした直売型農業」をコンセプトに、5反で営農する篠原茂幸さん(61)。元々は県の技術職員だったが、その手腕を買われ、旧富浦町時代に町職員になる。暖地園芸試験場などに22年勤め、果樹栽培に明るい。自らイチゴの新品種を作出、品種登録したほどの技術者である。その高い技術に観光集客という理念が加わり、とみうら枇杷倶楽部の中核職員に。町村合併で南房総市職員となり、商工観光部長で定年退職する。

富浦町職員から定年まで通算15年。篠原さんはずっと定年後を見据えて、中長期の営農計画を立てていた。現職時代からビワを植え、ブルーベリーを丹精し、クリやカキの果樹も加えた。品種登録したイチゴを含め、年間を通じて果樹が楽しめる。いまは予約制のブルーベリー狩りの最盛期でもある。

昨年3月に定年退職し、満を持しての篠原農園の開園だ。今月3日には自宅で、旧知の元NHK交響楽団員でバイオリン奏者の公門俊之さんを迎えて、オープニングコンサートを開いた。

エルガー作曲の「愛の挨拶」、パッフェルベル作曲の「カノン」、モンティ作曲の「チャールダージュ」など5曲が、石田沙織さんのピアノ伴奏とともに母屋玄関前に響く。N響の団友(OB)が自宅で演奏する機会は、房州ではまずないだろう。それほどの篠原人脈≠ネのである。

バイオリンの後は、地元で活動するソプラノ歌手の加藤千枝さんが、松岡昌幸さんのギター伴奏で美声を披露した。

篠原さん宅で演奏する公門俊之さん(左端)ら=同

母屋と庭には、地元の人や篠原さんの知り合いが陣取り、珍しい農園コンサートにうっとりと耳を傾けた。その後の宴には大勢の人が訪れ、篠原さんの人脈の太さをうかがわせた。

最近では元名も耕作放棄地が目立ち、農地が荒れ始めている。篠原さんら地元の人はこうした状況に頭を痛め、7年前に元名花街道を組織した。近所の気のあった仲間10人である。全員が農家ではないうえ、そのうち4人は移住者。月1回ペースで草刈り作業などに精を出し、作業後は必ず一杯飲む。「気の置けない仲間と楽しくやる。これが長続きする秘訣」と篠原さん。

元名は鋸山の南側の入り口。南の表玄関でもある。そこが草ぼうぼうでは、観光に結びつかない。保田と鋸山を結ぶルートをきれいにして、鋸山へ誘(いざな)う。これがグループの狙いである。

鋸山へのルートである元名には四季の花が咲き、明るい農村地帯が広がる。房州でも高齢化で疲弊する農村が多い中、元名ではまだまだ農家がしっかりしている。元名花街道の仲間の活動ゆえだろう。

コンサートのアンコール曲は「浜辺の歌」だった。哀愁あふれるバイオリンの演奏に、加藤さんの声が重なる。元名花街道の仲間もこれに聞き入った。その後の宴は夜遅くまで続いた。車座になっての手拍子の宴。鋸山から吹き降ろす風が、仲間のほおを優しくなでた。

【写真説明】元名花街道のメンバー=鋸南

【写真説明】篠原さん宅で演奏する公門俊之さん(左端)ら=同

13年8月12日 34,864
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved