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日本にはすべての国民が加入する健康保険制度(国民皆保険制度)があり、安い医療費で質の高い医療を受けられる点で、世界で一番良い制度だと私は思っています。

これは昭和36年にできた制度ですから、私が小学校6年生の時から日本国民はこの制度の恩恵に浴しているのです。私は子どものころから病弱で、いつも病院にかかっていましたが、母親があるときに「これからは保険が効くから、本当に助かるわ」と言っていたのを思い出します。あれが昭和36年だったのだと、しみじみと思い出します。次から次へとさまざまな病気にかかる私のような子どもを持ってしまって、両親はさぞ経済的に困っていたものと思います。稼業は、両親2人で営む陶磁器卸商でしたから、決して裕福な家ではありませんでした。

6歳時に脳性髄膜炎で入院していたときも、その後、耳鼻科関係の手術を受けた時も、腎障害で治療を受けていたときも、昭和36年よりも前でしたから、両親は医療費を工面するのに苦労していたのだと思われます。私自身はまだ子どもでしたから、「どうしてオレだけこんなに病気にばかりなるんだ」と自分の不幸を嘆いていただけでしたが。

昭和36年以降は、日本国民は健康保険制度のお陰で、安価に医療を受けられてきているので、現在ではそのありがたさを忘れがちですが、もちろん健康保険制度も少子高齢化時代に合わせて改良を加えないといけないのは当然です。

そんな時代変遷を見ている中、「奈良県が独自の診療報酬を自ら決めたいと政府に提案している」というニュースを見て驚きました。日本経済新聞の6月8日付の社説でした。

診療報酬の決定は、国全体で大変複雑な作業を繰り返して、やっと実現できるものです。これを県単位でやろうというのですから、私は驚き、「これを県単位でやろうなんて、奈良県の職員たちは正気か」とさえ思いました。

しかし、現状に甘んじず、さらに合理的な制度をつくろうとする意欲は高く評価すべきです。奈良県が「県単位で診療報酬を決める」という、壮大な社会実験に挑むことに驚いているばかりではなく、この実験が有意義な結果を生むように、皆で応援したいと思います。

日経は「これはいわば社会実験である。医療費の動きや隣接府県におよぼす影響を探るためにも、実現を後押しする責務が厚労省にある」と結んでいますが、厚生労働省は本当に奈良県に協力するのでしょうか。医療人として、また国民の1人として、注視していきます。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

6月18日20時00分 489
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