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日本では絶滅したと言われていたトキを繁殖させるために、国を挙げての大事業が行われたのはもう10年も前のことでした。

その後、トキの繁殖状況はどうなっているのだろうかと、野鳥を見るたびに思っていたのですが、2018年10月21日の毎日新聞にその近況を報じた記事を発見しました。

新潟県の佐渡島でトキを放鳥し始めたニュースが日本中を駆け巡ったのは、もう10年も前だったのかと感慨深く思い出します。

トキの「野生復帰事業」と呼称された事業で、マスコミも連日報道していました。これではトキが驚いてどこかへ雲隠れしてしまうのではないかと私は心配したものでした。

環境省が設置し新潟県が運営する「佐渡トキ保護センター」で人工的に飼育・繁殖を行い、えさ取りなどの訓練を施したトキを野外へ放し、生息数を増やす取り組みでした。2008年9月の第1回以来、これまでに19回、計327羽を放鳥してきました。放鳥したトキ同士や子の世代でも自然繁殖が確認されていますから、大成功と言えます。今は野外には推定で372羽が生息するとされ、飼育中のトキを含めれば約550羽に増えたそうですから、うれしいですね。

トキは、かつて日本各地に生息していました。しかし、田畑を踏み荒らす害鳥として嫌われ、明治時代以降は羽根などを取るために乱獲され、生息数が急減しました。絶滅を防ごうと、最後まで野外に残った佐渡のトキ5羽を1981年に捕獲して人工繁殖を試みたのが、国主導の保護増殖事業の始まりでした。しかし、残念ながら、これらもうまく行かず、2003年までにトキは絶滅してしまいました。

その後、日本でトキの復活を目指す機運が高まり、中国からトキを譲り受け、トキの復活事業がスタートしました。従って現在日本で生息するトキのルーツは、中国から1999年にやってきたつがいです。中国でも絶滅の危機に瀕(ひん)していましたが、陝西(せんせい)省で発見された7羽から、1989年に世界初の人工ふ化に成功し、今は2000羽以上が生息しているそうです。

トキを放鳥する意義はなんだろうと思う方も多いでしょう。トキの生息数を増やすこと以外に、生息する場所の自然環境を整えるという側面もあるそうです。佐渡ではトキが野外でドジョウなどのえさを取れるようにするため、水田で使う農薬を減らす取り組みなどが進んでいます。

毎日新聞は、10月17日には中国から11年ぶりに2羽のトキが日本にやってきたと報じています。新たなトキが仲間になることは、近親交配のリスクを下げるほか、「日中友好のシンボル」という外交的な意味合いも大きいようだと報じています。

トキの絶滅の原因が乱獲であったことをしっかり認識して、われわれ日本人は、動物の乱獲を慎み、自然保護に努めなければならないとあらためて思いました。

実は私、小学生ころ頃、かすみ網で野鳥を捕って食べていました。悪い子でしたね。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

10月29日20時00分 505
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