企画・エッセイ » 記事詳細

2019年3月18日の朝日新聞デジタルは、「災害時のトリアージめぐり訴訟に 学会は法整備視野」と題する記事を配信しました。

私は以前より、災害時のトリアージを担当することになったら、本当に恐ろしいことだと思って心配しておりましたので、とうとう恐れていたことが起きてしまったなと思いました。

災害時に適切な医療を、1人でも多くの人に効果的に行うためには、医療行為をしても全く効果がないと思われる人に、「この人には医療を行わない」と決定する黒カードを付けなくてはならないことがありえます。その時の責任の重さを考えると、本当に恐ろしくなります。

かつて阪神淡路大震災の時に、私がよく知っている県立淡路病院のM院長の活動状況がマスコミで放映されたことがありました。その中でM院長が、「あ、この人もう治療対象外だから、心臓マッサージ止め!」と指示を出す場面がありました。

私は、この場面を目の当たりにしたご家族の心中を考え、M先生を恨んで訴える人が出てくるのではないかと心配しました。

今回の新聞報道を見て、それがとうとう現実になってしまったなと感じ、悲しくなりました。最初に患者さんを診たときに、それほど重症ではないから、他の人を先に診なくてはならないと判断してトリアージを実行して、次から次へと搬送される患者さんの治療に追われているうちに、先に急ぐ必要はないと思われた患者さんの容態が変わることは珍しくありません。そのような例でもし患者さんが不幸の転帰をとられたときに、担当した医師を訴えるご家族が出てくる可能性はあるので、このような時に医療従事者いかに守るか、免責するかをしっかりと考えておかないと、医療者が災害医療の現場から逃げ出すようになる可能性は高いです。

今回の朝日新聞の記事でも、「トリアージに特別な免責規定はなく、法的整備を検討すべきだとの声もあった中での提訴で、災害医療の関係者には波紋が広がった。日本災害医学会は17日の理事会で、法制化に向けた提言づくりなどを始めると決めた」と報じられています。

これは学会で決めるだけではなく、国としてもっと早期に対策を講じておくべきだったと思います。

今回の事例で、医師が敗訴となれば、波紋は図りしれないほど、大きなものになるでしょう。医師のみならず、あらゆる職種の医療従事者が災害医療の現場に近づこうとしなくなるのではないかと私は心配しています。

* * *

加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

3月25日20時00分 601
Copyright (C) 2007 Bonichi. All Rights Reserved