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東京・池袋の繁華街で白昼、87歳の男性が運転する乗用車が赤信号を無視して暴走し、母子2人が死亡、男性を含む8人が重軽傷を負った事故が日本国民の注目を浴びています。

高齢者が加速度的に増えていく現在の日本社会においては、このような事故はますます増えていくものと覚悟しなくてはならないでしょう。

超高齢者のがん患者が増えていますから、そういう方々が術後長期にわたり通院なさることが珍しくなくなりました。

私の前任地の亀田総合病院は、南房総という高齢化率の高い地区にありましたから、大勢の高齢者ががんの術後、私の外来へ通院しておられました。

85歳以上の患者さんには、いつも「車の運転をして通院なさるのは、交通事故が心配ですから、避けていただけませんか」とお願いしていたのですが、返って来る答えは、「こんな田舎に住んでいる年寄りに、車の運転をするなと言われたら、生きて行くなと言われるのと同じだ」というものでした。

お子さんが大変高い地位についておられる患者さんも珍しくなかったので、「息子さんや娘さんの立場を考えると、もしあなたが交通事故を起こされると、子どもさんの立場がありませんよ」と話したこともよくありましたが、子どもが一緒に住んでいて助けてくれるわけでもないから、どうしようもないよ、と答えられると、私はそれ以上何も言えなくなっていました。

息子さんたちが、反社会的勢力の中での有力者であった方もおられましたが、同じようなやりとりを毎回しておりました。

超高齢者が加害者となった事故のニュースに接する度に、多くの高齢患者さんの顔が浮かび、心配になってきます。

私の父親も、84歳くらいまで若い人と野球をやり続けていた元気な老人でしたが、その後、急速に衰え、近所の皆さまから、危険運転の通報が来るようになり、免許証を取り上げました。

本当に超高齢化社会の中で、高齢ドライバーをどう扱うかは、難しい問題です。産経新聞は、運転免許の定年制を社説で主張していますが、高齢者からの強い反発が予想されます。政治家も選挙のことを考えると、高齢者の投票数を意識して、簡単に「自動車運転免許の定年制」を公約には掲げにくいのではないでしょうか。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

19年4月29日 757
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