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高齢者が増える一方の日本社会において、高齢ドライバーの事故防止対策が喫緊の課題になっていることは、多くの日本人が認識していることと思います。

多くの国民がこの問題に興味を持つようになったきっかけのひとつは、東京・池袋で、87歳の男性が運転する車に母子がはねられて死亡した事故だったと思います。この記事を読んだ多くの国民は、だから高齢者の運転は禁止すればよいのだ、と思ったことでしょう。

高齢化は誰もが直面する現実ですが、車の運転は地域によって生活の手段として欠かせないものです。池袋でなら車の運転をしなくても高齢者が生活していくことは不可能ではないかもしれませんが、私の前任地の亀田総合病院がある南房総では、高齢者が車の運転をしないで生きていくのはかなり大変だと思っています。

私が手術をさせていただいた多くの患者さんの中にも、がんの術後通院しておられる方の中に、85歳以上の方も少なからずおられ、私はよく「年齢を考えて、通院は自分の運転ではなくて、若い人に送ってもらうか、公共の交通機関を使ってくださいませんか」とお願いしたものでしたが、ほとんど拒否されました。

「こんな田舎に住んでいたら、車なしで生活できるわけがないだろう」「車で送迎してくれるような若い者が周りにいないよ」「公共の交通機関と言っても、こんな田舎じゃ、バスなんか1日に数本しか来ないよ、多い時で2時間に1本くらいしか来ないよ」などと言われると反論できませんでした。

中には、息子さんや娘さんが、社会的に高い地位についておられる有名人もおられ、「万が一、お父さんが交通事故を起こされると、お子さんの立場がありませんよ」というお話もよくしたものですが、「いくら子どもが有力者になっていると言われても、近くにいないんじゃ、どうしようもないでしょう」という反論もいただきました。

こう言われると、わが身を振り返って、親から遠く離れて生活してきた私自身の親不孝者ぶりを反省させられることになり、恐縮するばかりでした。

国によっては、高齢を理由に運転免許証の返納を迫ったら、反対に訴えられかねないところもあるようですから、ほんとうに難しい問題です。

新聞に出てくるコメント記事では、「多様な選択肢を準備し、地域事情に合わせた解決策を社会全体で考えていくしかないだろう」などと締めくくることになりますが、内心忸怩(じくじ)たる思いで生きている今日このごろです。

私自身は、脳出血後のために現在、運転を禁止されていますが、来年は運転免許更新の時期です。身分証明書として持ち続けたいという未練もありますが、やはり、返納すべきでしょうね。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院名誉院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

7月8日20時00分 417
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