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私が青年だったころ、日本は第2次世界大戦後の状態から復活し、好景気に沸いていましたが、世界を見れば東西対立が続き、米国とソ連が率いる資本主義陣営と社会主義陣営の対立が続いていました。

ベトナム戦争とベルリンの壁は、私の記憶の中では、それらの象徴のように存在し続けています。

ベルリンの壁は東ドイツが市民の往来を禁じるため1961年から建設し、全長約155`に及んだものでした。資本主義と社会主義の体制間で民族が引き裂かれ、米ソ対立の最前線となったのでした。

ドイツを東西に分けていたベルリンの壁は、もう永久にそのままなのではないかと思っていた時期もありましたが、歴史は動いたのでした。最終的に「鉄のカーテン」を壊したのは市民の力だったとの印象を強く持っています。壁によじ登り、つるはしを振るう若者たちの姿に世界が高揚し、西側の勝利による対立の「歴史の終わり」さえ、予感させたものでした。壁が壊され、両サイドの市民たちが自由に行き来する様子を見て、胸が熱くなったのを今もよく覚えています。人類の英知に感激したものでした。

東西ドイツを分断し、冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊して30年となります。自由と民主主義が東欧にも広がったと思っていましたが、毎日新聞は11月9日の朝刊で、排外的な新しい「分断」の動きが出ているのを案じる、と報じました。

ハンガリーのオルバン首相らの提唱により、「キリスト教に根差した欧州文化がイスラム教徒主体の移民に脅かされる」と主張して、難民や移民を阻止するための越境防止フェンスを隣国セルビアとの国境に設置したというのですから驚きました。まるでベルリンの壁の再来だと思いました。欧州諸国では1990年以降、総延長約1000`に上る越境防止フェンスが建設されたとのこと。これはベルリンの壁の約6倍もの長さになります。

毎日新聞は次のように結んでいます。

「欧州は岐路に立っている。メルケル氏の『自由で開かれた欧州』への世論の風当たりが強まり、『自国の要塞化』を進めるオルバン氏の路線に押されているように見える」

私はこれまで、ハンガリーの首相がドイツの首相を上回るほどの力を持ってくるとは予想していなかったので、とても戸惑っています。

ほんの30年前には、中国とインドが現在ほどの経済力を持ってくるとは思っていなかったので、これからも驚くようなことがいろいろと起こり得ると覚悟して世の中の動きを注視していきます。

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加納宣康 昭和24年8月4日、岐阜県生まれ。千葉徳洲会病院名誉院長

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

19年12月2日 618

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