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国民にとっての清涼剤

第89回全国高校野球選手権大会は、佐賀北高が優勝しました。

この優勝は久し振りの「公立高校の優勝」として、国民に一際大きな歓びを与えたといえます。高度化した近年の高校野球では私立校の活躍が目立ち、夏の甲子園大会ではそれが最も顕著でした。この大会で公立校が優勝したのは平成8年の松山商(愛媛)以来だったというのも肯ける現象でした。最近の高校野球界は特待生問題で揺れていただけに、4081校の頂点に立ったのが、公立校の野球が好きな「普通の生徒たち」だったというニュースに日本全国が歓迎ムードに浸ったといえるでしょう。

私立高校のように、体位に恵まれた特別優秀な野球少年を集めることもせず、先発メンバーの半数以上が170aに満たない小兵たちであったことも感動的でした。当初、この学校が全国一になると予想した人は少なかったに違いありません。

一躍注目されたのは宇治山田商との2回戦で、昨夏の決勝に続く延長15回引き分けという熱戦を繰り広げたことでした。また準々決勝の帝京戦では再び延長13回の熱戦を演じました。厳しい予選を勝ちぬいて甲子園にたどりついた「東の横綱」帝京高校と堂々と渡り合い、サヨナラ勝ちしたのでした。そしてドラマはさらに続き、決勝戦では逆転満塁本塁打で勝負を決めて、初優勝を飾ったのでした。

佐賀北高校は普通の公立高校であるため、練習環境に恵まれているとは言えません。放課後の練習は午後7時30分までで、試験前1週間は部活動を休むといいます。百崎敏克監督の指導方針は「野球に打ち込みたかったら勉強もがんばらないといけない」というものだそうですから、これこそが高校野球の原点だと誰もが納得するでしょう。どこにでもある県立校なのです。しかし快進撃の裏には、たゆまぬ努力が隠されていることを忘れてはなりません。土台になっているのは徹底した基礎練習で、「練習時間が短いことはハンディとは思っていない」という百崎監督の言葉には重みがあります。

特待生問題で高校野球界が大揺れした直後の夏の甲子園で頂点に立ったのが「ごく普通の県立校」だったというのは、来年度入学予定者について特待制度を容認した高校野球界に痛烈な皮肉を浴びせる結果となりました。「みんな試験を受けて入学した県内の生徒たち」で全国一になった佐賀北高校、ほんとうにおめでとう。将来、プロ野球へ進む選手はほとんどいないと思われますが、彼らにとり、今回の経験はこれからの人生を生きていく上で大きな自信になったことでしょう。

一方、特待生として野球エリートの道を進む多くの若者達には、ますます精進して自分の夢を実現していってほしいと切に思います。

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年8月27日 47,281
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