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年金問題は日本だけで騒がれているのかと思っていましたが、インターネットで配信されるニュースをみているとそうでもないことが分かりました。先進国はどこでも少子高齢化問題が基本にあるため、大なり小なり、年金が共通の問題となるようです。

米国でも年金制度は大きな関心事です。ブッシュ大統領が2期目の重要課題として公的年金に「個人勘定」を導入する抜本改革を打ち出しましたが、議会で主導権を握る民主党の反対で、事実上棚上げの状態のようです。米国の公的年金(OASDI)は賦課方式で、現役世代が給与から支払う社会保障税(保険料に相当)が財源です。しかし、7600万人に上るベビーブーマー世代の給付が始まる来年ごろから財政が悪化することが不可避と言われています。米国政府の試算では2018年に赤字に転落と指摘しています。2042年までには「システム自体が破綻する」(ブッシュ大統領)とさえ言われています。

英国でも高齢化と平均余命の伸びにともなう年金支出の増大で、私的年金は軒並み赤字となり、定年後に期待した額の年金を受給できない事例が増えているといいます。2007年2月には高齢者4人が政府に「失われた年金」の補償を求めた裁判を起こしたところ、原告勝訴という結果でした。私的年金を奨励した政府の責任も問われる事態となっています。

ドイツの年金制度は、日本がかつて年金制度の導入にあたって参考にしたものでした。しかし、日本と同様、「少子化の波」に洗われ、2012年からの支給開始年齢の引き上げを行いました。ドイツ政府は企業に高齢者の積極雇用を働きかけているといいますから、わが国と同様の経過を辿っているようです。

お隣の韓国でも年金問題が吹きあれています。同国は国民皆年金の日本をモデルに、1988年に年金制度をスタートさせました。しかし、急速な少子高齢化で、このままでは約30年後には破綻することが確実視されています。対策として保険料引き上げや支給率引き下げなど制度改正案が与野党から国会に提出されていますが、今年は大統領選挙を控えているため審議は先送りされたとのことです。ただし、1968年に導入された住民登録番号制(国民背番号制)で年金記録を含む個人情報が管理されているため、日本のように記録不明などの事態は韓国では起こりえないのが救いでしょう。

世界中で起こっている年金問題は、少子高齢化の結果、必然的に起こった問題です。しかし、これは20年以上前から予測できていたことで、その対策を後まわしにしてきたツケが今回ってきたことは確かです。わが国が他国と較べてさらに分が悪いのは、少子高齢化のスピードが最も速いと言うことと、その記録さえもがはっきりしないという恥ずかしい失態をしでかしているということでしょう。

この際、個人情報問題をタテに反対することなく、勇気を持って「国民背番号制」を導入してしっかりした管理体制を作り、選挙対策などのために党利党略に陥ることなく、各国が行おうとしている様々な対策を積極的に実行していくしかないでしょう。よく事態を説明すれば国民も受けいれてくれるでしょう。 2007/07/03 掲載分

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加納宣康 昭和24年8月4日岐阜県生まれ。現在、亀田総合病院特命院長補佐、主任外科部長、内視鏡下手術センター長、マハトマ・ガンジー・メモリアル医科大学名誉客員教授、帝京大学医学部外科学客員教授

(この原稿は加納医師が、本紙読者のためにボランティアで執筆しています)

07年7月2日 48,254
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